▽06/20 16:51

やっぱりタマキはカナエが好き、なんだ。
俺の方を振り向いて欲しいと情けない姿を晒してまで懇願した願いは、結局叶うことはないのだと思い知る。

忘れ物を取りに戻った解散後のミーティングルーム。
誰もいないと思っていたのにドアは少し開き、光が少し漏れていて。
こんな時間に誰だろうとちらりと部屋を覗いて、・・・後悔した。
ソファーで項垂れるカナエ、そんなカナエの頭を優しく抱き締めるタマキ。
その表情はとても柔らかく優しさと愛情に満ちていて。
俺にはそんな表情向けてくれたことないよな、なんて考えたら悲しくなった。
部屋の中の二人は俺に気付くことなく、甘い雰囲気を垂れ流している。
カナエが頭を上げて、タマキの後頭部を手で支えている。
タマキの腕はカナエの首に回されていて、徐々にその距離が近付いて行く。
これから始まることなんて、容易に想像がついた。
それ以上いれなくなって、バンプアップに駆け込んだ。
ワゴン車に戻っても今日はヒカルは出掛けている。
一人で夜を過ごすのはとても耐えられそうになかった。

「どーした?」

バンプアップに入るなり、俯いて立ち尽くしてしまった俺に誰かが声を掛ける。
マスターの声じゃない、そう思って顔を上げるとコバルトブルーの瞳がこちらを見つめていた。
持っていたグラスをカウンターに置いて近付いてくる。
その様子をただ見ていると、すっと手を伸ばして目尻を拭った。
驚いて目を見開くとフッと笑ったトキオに目に入った。

「何泣いてんの」

おにーさんが話を聞いてあげよう、手を引かれてカウンターに座らされた。
その時、初めて自分が泣いていることに気付いた。
よしよしと背中をさする手のひらが温かくて、涙がまた溢れ出てしまう。
しばらくそうやって背中を撫でられて、自分の気持ちが落ち着いた。
トキオは話を聞いてやると言ったくせに、何も聞いてこない。

「落ち着いた?」

ようやく涙が出てこなくなり、目を擦るとトキオが笑った。
マスターが作ってくれたカクテルに黙って口をつける。

「別に言いたくなければ無理にとは言わないけど、話すとすっきりすることもあるぞ」

話すとすっきりする、か・・・。
トキオとは特に親しい間柄でもなかったが、今は誰でもいいから縋り付きたかったのかもしれない。
俺はぽつりぽつりと独り言を言うようにトキオに話した。

「俺は・・・、タマキが好きだ」

最初はふざけてた様子だったトキオが、その一言で表情を変えた。
真剣な表情で俺を真っ直ぐと見つめる。

「タマキにもこの前伝えた」

タマキが記憶を取り戻したあの夜に、俺を選んでくれと伝えた。
でもタマキは答えが出せるまで待って欲しいと言ってくれた。
タマキの返事を待とう、そう思っているところに・・・カナエが復帰した。
そしてタマキはやっぱりカナエのことを大切に思っているようで、
そこまで言ってさっきの光景を思い出し口ごもる。
止まっていたはずの涙が、また溢れそうになって歯を食いしばった。

「泣きたいときは素直に泣けよ」

おにーさんが肩を貸してやるから、トキオはそう言って俺の頭を自分の肩に乗せた。
頭をとんとんと叩かれて、我慢していたはずの涙がまたぽろりとこぼれた。

「カナエが部隊に復帰するなんて思ってなかった・・・」

タマキがカナエに優しく接するところを見る度に心が痛んだ。
それでもあの時、すぐに答えを出さなかったタマキに少し期待しているところもあった。
けれど、先ほどの二人を見て俺の願望はバラバラに打ち砕かれた。

「勝手に期待して勝手に傷付いて、バカみてぇ」

ははは、と乾いた声で自虐的に笑う。そうだ、俺が悪いんだ。
全てを捨ててカナエと逃避行するくらいなんだ、俺を選ぶ可能性なんて・・・。
そこまで考えて、大きく息を吐き出す。
トキオは何も言わず複雑そうな表情で俺を見ていた。

「話したらすっきりするって、本当なんだな」

目の前のグラスを一気に飲み干す。少しきつめのアルコールに頭が少しくらりとした。

「なんでお前がこんな目に遭うんだろうね」

自分の肩に乗せている俺の頭に、トキオは自分の頭を預けてきた。
長い指がさらりと俺の髪を梳く。
同情なんてやめてくれ、言いかけた言葉は飲み込まれた。
目の前には焦点が結べないほど近くにトキオの顔がある。
唇に触れる湿った感触に、キスされているのだと気付いた。

「タマキじゃなくて、俺にしなよ」

顔を離したトキオはいつものようにへらっとした表情で笑う。
意味が分からずに目を瞬かせるとトキオはプッと吹き出した。

「そういう顔するなって」

そう言ってまた長い指が俺の髪を撫でたとき、バンプアップのドアが開いた。
そこにはタマキとカナエが立っていて、どきりとして体が強張った。

「二人お揃いで」

トキオは挑発的な笑みを浮かべて俺を腕の中に収めた。
抵抗したが、トキオに力では敵わない。
入り口で立っている二人は目をぱちぱちとさせている。
タマキが動揺したような目で俺を見ている。

「俺たちも今デート中なの、ね?カゲミツ」

トキオはそう言うなり抱き締める腕に力を込めた。
驚いたようなカナエと、複雑そうなタマキ。
口では違うと言えたはずなのに、なぜか否定の言葉が出てこなかった。

「じゃあ邪魔したら悪いね」

カナエがタマキの腕を引っ張って言う。
タマキはハッとし、表情を緩めてそうだなと同意して、トキオと同じ自宅へと戻って行った。
俺は何も言うことなく二人の後姿をただ見つめていた。

「ということで、今日は泊めさせてね」

ヒカルはキヨタカ隊長のところだろ?ニッと笑った表情に頷いて答える。

「傷付いたときは誰でもいいから頼ればいいんだよ」

トキオは二人分のお代を払い、俺の腕を取って立ち上がった。
それにつられて俺も立ち上がる。
カナエに向けられたタマキの表情が頭をよぎる。
とりあえず今は、自分の腕を取るその男に頼らせてもらおう。
俺はそう決めて、ワゴン車へと向かうために歩き始めた。

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