▽11/16 11:30
「久し振りだし、いいでしょ?」
風呂上がりのカゲミツを捕まえ、寝室まで移動してベッドに押し倒した。
耳元に低い声で囁いてやるとカゲミツが小さく息を詰めた。
反応は悪くない。
微笑んでゆっくり顔を近付けると受け入れるように目が閉じられた。
最初は触れるだけの甘いキスを何度も繰り返す。
遠慮がちに背中に回された腕にオミが小さく笑う。
時折ちゅっとわざと音をたてて唇を離すとカゲミツの潤んだ目と視線が絡んだ。
「もっと激しいのがいい?」
意地悪く問うと恥ずかしそうにもじもじとしながらも頷くのが見えた。
お互いを求め合うかのような激しいキスをしていると、不意にサイドテーブルの上の携帯が震えた。
無視してもう一度唇を重ねようとした時、カゲミツが譫言のように呼んだ名前を聞いて体が止まった。
ディスプレイも見ずに言い当てられたその名前にオミが眉を寄せる。
しかし今は"恋人同士のお楽しみの時間"なのだ。
再び顔を近付けようとしたらカゲミツに止められてしまった。
「無視すればいいだろ?」
「仕事の電話かもしんねぇし・・・」
タマキから電話がかけてくるなんてめったにねぇし。
そう付け加えられた言葉に顔を離した。
恋人とのキスよりも仕事のことを考えるのもショックだった。
それ以上に携帯の震え方だけでタマキだとわかることが嫌だった。
どんどん自分の気持ちが沈んでいくのがわかる。
さっきまで感じていた興奮も一瞬のうちにどこかに消え去ってしまった。
「オミ、悪かった・・・」
内容は大したことではなかったらしく電話はすぐに切られた。
つづき、と催促する目を見ても興奮は戻ってこない。
乗り上げていたカゲミツからおりると、どうしてと目を丸くされた。
「興ざめしちゃった」
「・・・俺はどうすればいいんだよ」
「一人で出来るよね?」
「お前がいるのに一人でするのは・・・」
いつになくカゲミツが可愛いことを言ってくれるが、もう行為を再開する気持ちは1ミリもなかった。
「そんなこと言っても、今日はしないよ」
いつかカゲミツに言われた拒絶の言葉をそのまま返す。
今欲しいのは可愛いお誘いの言葉でも謝罪でもない。
愛されているという確かなものが欲しいのだ。
少し傷付いたような顔のカゲミツにおやすみと微笑んで部屋を出た。
「俺よりタマキを取ったのはカゲミツだから・・・」
部屋に向かって言った言葉はカゲミツに聞こえることなく宙に消えた。
はぁ、と重い息を吐き出してオミは自室に戻った。
「オミ、さっきはごめん」
「別に謝って欲しい訳じゃないんだ」
しばらくしてからカゲミツがドアの向こうから話し掛けてきた。
本当に悪いと思っているのか、らしくない声色だ。
「カゲミツはまだタマキのことが好き?」
「それは・・・・・・」
「違うって言ってくれないんだ?」
ははっと渇いた笑いを上げるとじんわりと視界が歪んだ。
即答してくれると思っていただけに心がきゅっと痛くなる。
「俺はタマキが好きだ、でもそれはお前に対する好きとは違う」
「仮にも恋人なんだから、そこは違うって言って欲しかったんだよ」
カゲミツはきっと自分の気持ちに嘘をつけないんだ。
それを含めて愛しているけど、タマキについてだけは敏感になっていた。
一緒に暮らし、唇を合わせ身体を重ねるようになってもなかなか消えない不安。
だから自分から求めてくれることが嬉しかった。
たかだか携帯の設定だけで疑ってしまうなんて女々しいと思っている。
けれど恋人である自分はきっとそんな設定はされていないはずだ。
試しに電話を掛けるとこんな時間に誰だという声が聞こえた。
「やっぱりタマキは特別なんだ」
「オミ・・・どういうことだよ」
カゲミツの問い掛けを無視して電話を切った。
わかっていたのに、実際目の当たりにするとやっぱり傷付くもんなんだ。
「タマキからの電話はわかるのに、俺からの電話はわからないんだね」
「そういえばタマキは設定したままだな」
多分タマキに思いを寄せていたときに設定してそのまま変更するのが面倒だっただけなんだろう。
それでもさっきの好きだという言葉が重くのしかかる。
「・・・もしかして、だから怒ってんのか?」
「・・・・・・」
何ともない風にカゲミツの声が嫌で唇を噛んだ。
お前はバカだと言うのがドア越しに聞こえる。
「ずっと一緒なんだから、お前のは設定する必要ねぇだろ?」
ガチャリと音を立ててドアが開いた。
鍵をかけておけばよかったと後悔してももう遅い。
頬を伝う涙は簡単には止められない。
「何泣いてんだよ」
言葉と同時にふわりとカゲミツに抱きしめられた。
オミと小さく呼ばれ俯けていた顔を上げるとキスが落ちてきた。
何度目かのキスでぎこちなく舌を絡めよとするのが愛しい。
少し肩を押して顔を離すとカゲミツが不満そうな顔をした。
「続き、しようか?」
恥ずかしそうに小さく頷いたのを見て、今度はオミから唇を重ねた。
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