▽06/18 22:39

先ほどまで近くにいたはずのオミが見当たらない。
もしやと思って病院の地下に降りると、やはりオミはそこにいて。
安らかな顔で目を閉じているヒサヤの温かみのない手をぎゅっと握っていた。
声を掛けようとして、口を噤む。
何となく、今は声を掛けてはいけない気がした。

「・・・カゲミツ?」

しばらく部屋の入り口で様子を伺っていると、後ろを振り返ったオミと目が合った。

「何か用かい?」

以前対峙したときのような威勢のよさはもうどこにも見当たらない。
"大切な人"を失ってただただ意気消沈している。
そんなオミを見ていると、胸にちくっとした痛みが走った。

「治療の準備が出来たぞ」

正確にはもうすぐで、がつくけれど。
別に逃げたと思っていた訳ではないが、今のオミはとても不安定だ。
一人にしたくなかった。一緒にいてやりたかった。
一緒にいたところで、オミの傷が癒える訳なんて知っている。
それでも少しでも支えになれればと思ったんだ。

「俺はもう少しここに残るよ」

こちらを見ずにそう返すオミにまた胸がちくりとした。
自分よりも大きなその背中が、今はとても小さく見えた。
頭で考えるよりも先に、体が動いていた。

「何してるんだい?」

そう聞かれても答えは用意されていない。
自分だって分からないのだから。
悲しみに暮れるその背中に、気付いたら後ろから抱き着いていた。

「分かんねぇ」

絞り出すように答えると、オミはそれ以上聞いてこなかった。

「なぁオミ、泣きたかったら泣けよ」

しばらく無言でいたが、その沈黙を自分で破った。
別に耐え切れなくなった訳じゃない。
ただ黙ってオミに抱き着いていても、きっと傷は癒えないだろうと思ったからだ。
オミはフッと笑うとすぐにくしゃりと顔を歪ませた。

「泣き方なんて、とっくに忘れてると思ってたよ」

鼻声でそう言うと嗚咽を漏らし始めた。
その姿は大切な人を亡くしてしまった年相応の青年に見えて。
テロリストと呼ぶには、少し儚過ぎた。
オミが落ち着くまでとんとんと腕を叩いてあやし続ける。
握る手に力がこもるのを見てしまい、思わず目を逸らした。

「今まで何人も殺してきたテロリストがたった一人のために泣くとはね」

オミが自嘲気味に笑った。
その笑顔は酷く痛々しくて、胸が痛む。
それだけ大切だったんだろうと言いかけて止めた。
そこで肯定されるのを、なぜだか見たくなかった。



「ありがとうカゲミツ」

しばらくしてオミは腕を解いて立ち上がった。
さっきまでの弱った様子はもうほとんどなくなっていた。

「俺は生きるよ、ヒヤサの分まで」

振り返ったオミが見るのは俺か、それともその後ろで幸せそうに目を閉じるヒサヤか。
ふとよぎった考えを慌てて振り払う。
ぎゅっと心臓を捕まれた気持ちになったことには、気付かないフリを決め込むことにした。


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