▽10/28 01:02

屋上に入るドアを薄く開けて外の様子を伺う。
そこには太陽に反射してきらきらと輝く金髪が座って空を見上げていた。
最近カゲミツがここによく来ていることをアラタは知っていた。
昏睡状態から目を覚まして半年、表面上は何ともないフリをしているけれど傷付いた心はそう簡単に癒すことは出来ない。
小さな声でタマキと呼んで膝に顔を埋めたカゲミツを見ていられなくてドアを開けた。

「カゲミツ君、またここにいたの?」
「あぁ、アラタか」

腰にぎゅっと後ろから抱き着くとカゲミツが優しくアラタの髪を撫でた。
微笑む顔は儚げでこのままどこかに行ってしまいそうな気がして腕に力を込めた。

「どうした?」
「・・・またタマキちゃんのこと考えてたの?」

下からカゲミツの顔を覗き込んで尋ねると、穏やかだった表情が瞬時に曇った。
どう答えようかと視線を迷わせているカゲミツはひどく弱々しい。
二人がいた頃、こんな顔したことあったかなと考えてやめた。

「僕の前で無理しなくてもいいんだよ」

腰に回していた手をカゲミツの頭の上に乗せてポンポンとする。
泳いでいた目が一瞬見開いてもう一度膝に顔を埋めた。
微かに揺れる肩に泣いているのだとわかったけれど何も言うことが出来ない。
言葉のかわりに一定のリズムでポンポンとし続けた。



「忘れられねぇんだ」

どれくらいそうしていたかはわからないが、カゲミツが唐突に口を開いた。
涙声を気にすることもなく、カゲミツはぽつりぽつりと言葉を吐き出す。

「好きなまま消えちまったから、忘れる方法がわかんねぇ・・・」
カゲミツは二人が逃げたところを見ていないからそんなことが言えるんだ。
あるはずの光景が寝て起きたら忽然と消えてしまっていたのだ。
だから気持ちは今なお残り続け、思い出は美化されてカゲミツを縛り付ける。
二人が逃げ出したとき、カゲミツが眠っていてよかったのかとアラタは考える。
もし起きていたら今よりもひどいショックを受けていたに違いない。
かといって感情を持て余し過去の記憶に囚われ続ける方がよかったとも言えない。
結局、二人がいなくならなければこんなことにはならなかったのだ。

「カゲミツ君、手が冷たくなってるよ」

戻ろう?とカゲミツの手に優しく触れる。
こくんと頷いた顔は年上なはずなのになぜか幼く見えて、切なさを押し殺すようにカゲミツの手を強く握り締めた。

「早く忘れちゃえばいいのに」

(自分たちを置いて逃げた奴なんて忘れて、僕を見て?)

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