▽11/01 00:21
時刻は夜の10時。
シンジュクなのに人もまばらな場所にあるコインランドリーにカゲミツはいた。
ワゴン暮らしのカゲミツに洗濯機などもあるはずもなく、こうやってたまにコインランドリーに来ているのだ。
ぐるぐると回る洗濯機を見てぼんやりと考える。
タマキは元気にやっているのだろう。
幸せに笑っているのだろうか。
思い出すのはタマキの笑顔ばかりで、ふぅと息を吐き出した。
「何か悩みでもあるの?」
ポンと肩を叩かれて振り返った先には褐色の肌をした男が立っていた。
このコインランドリーに通い始めて随分と経つが初めて見る顔だ。
突然のことに戸惑うカゲミツをよそに男は隣に座った。
「何も知らない人の方が案外話しやすいかもよ?」
ここで会ったのも何かの縁だと男は笑った。
最初こそ慣れ慣れしい奴だと警戒していたカゲミツだったが、誰にも漏らすことの出来ない気持ちを聞いて欲しかったのかもしれない。
もう二度とコイツに会うこともないかもしれないと思い、ぽつりぽつりと言葉をこぼし始めた。
「好きな人がいるんだ」
その人は知らない間に遠くに行ってしまった。
いなくなってからその人のことを考えなかった日はない。
もう叶わないと知っているのにそれでも忘れることが出来ない。
だから元気で幸せにいてくれたらいいと思うんだ。
・・・出来ればもう一度会いたいけどな。
そう言って微笑んだカゲミツは最初の刺々しさなんてなくなっていてトキオは息を飲んだ。
聞いていた情報と違うカゲミツの脆い一面。
下手に触れたら壊れてしまいそうだとトキオは思う。
洗濯機の音はいつの間にか止まっていた。
「大丈夫、カゲミツがそう願ってるならきっと幸せでいるよ」
「・・・お前どこの誰だか知らねぇけどいい奴だな」
「お前じゃなくてトキオって名前があるの、覚えとけよ」
「また会うことがあればな」
そう言ってカゲミツは立ち上がった。
ありがとう、そう告げて出て行った後ろ姿を見送る。
胸にちりっとした燻りを残してトキオも立ち上がった。
それから数週間後、カゲミツの小さな願いは叶えられることになった。
タマキがJ部隊に復帰することになったのだ。
当日、カゲミツがそわそわを隠しきれないでいるとミーティングルームのドアが開いた。
「ただいま」
タマキが帰ってきた、それよりも後ろに立っていた男にカゲミツが目を瞬かせた。
「初めまして、今日からJ部隊に配属になりました」
「トキ、オ・・・」
「お前は初めてじゃないな」
わしゃわしゃと髪を掻き混ぜるコバルトブルーの瞳を見つめる。
これからよろしくなと笑ったトキオに、カゲミツはこくんと頷くしか出来なかった。
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