▽10/22 00:24

「イチジョウ君、そんなにボタン開けちゃダメだよ」
「うるせーんだよ」

二時間目の授業が終わった休み時間、彼はひょこりと廊下に現れた。
どこにいても目立つ金髪、乱れた服装、ちゃらちゃらと歩く度になる金属音。
今まで騒がしかった廊下が彼が来た途端、しんと静まり返った。

「それから今何時間目だと思ってるんだい?」
「知ったことか」

しかし俺はそんな彼の背中を追い掛ける。
クラス委員として彼の行動を見過ごす訳にはいかなかった。
自分の教室を通り過ぎそのまま屋上につながる階段に向かおうとする肩を掴む。
鬱陶しそうに彼が振り返ったとき、三時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。

「ほら、教室に帰れよ委員長さん」
「今は諦めるけど、今度はちゃんと授業を受けてもらうからね」

そんな俺の言葉をさらりと聞き流して彼は階段をのぼっていった。
ふぅ、と一息ついて自分も教室に戻った。

結局その後すべての授業が終わっても彼は教室に姿を見せることがなかった。
クラス委員としての仕事をさっさと終わらせ、立入禁止の屋上に向かう。
彼はきっとここにいるはずだから。
ドアを開けると地面に広がった金髪をすぐに見つけることが出来た。
そろりと近付いて顔を覗き込む。

「寝顔は可愛いのにね」

意外と幼い寝顔にクスリと笑みをこぼす。
太陽の光を浴びてきらきらと光る金髪にさらりと指を通した。

「ん、」
「あ、起きた?」
「フジ・・・ナミ・・・?」

寝ぼけた喋り方が可愛くて少し笑っておはよと声を掛けた。
目をぱちぱちさせるカゲミツの体を抱き起こして背中の塵を払ってやる。

「お、お前何やってんだ・・・!」
「だからボタン開け過ぎだってば」

むっとした顔で睨みつけてくるカゲミツの質問に答えずシャツを指差す。
本来全部締めないといけないのに上から二つ目まで開けられていて、ちらりと見える白い肌がどんなに色気があるのかわかってほしい。
わーわーと喚く口がうるさくて、誰もいないのをいいことに唇で塞いで黙らせた。
すぐに抵抗されると思っていたのに、数秒間固まってしまったカゲミツに痺れが切れた。
ただ重ねるだけのつもりが薄く開かれたそこに舌を差し込んでしまった。
ねっとりとカゲミツの舌に自分の舌を絡めるとようやくカゲミツが我に返ったようだ。
力いっぱい肩を押してくるが体格は自分の方が上だ。
後頭部を手で支え逃げないように腰に腕を回すと更に抵抗したが今更逃がしてあげれない。
怒りか恥ずかしさか、それとも気持ちいいのかカゲミツの顔は上気し、目にはうっすら涙が浮かんでいる。
抵抗していた手が力無く肩を掴んだのを感じてようやく唇を離した。

「っはぁはぁ、お前、何しやがる」
「そんな顔で言っても全然怖くないよ」

肩で息をするカゲミツの背中を撫でてやる。

「キスするときは鼻で息するの、イチジョウ君なら知ってるでしょ?」
「どういうことだ」
「そんなにワルぶってるのにまさか知らなかったとか?」

事実だったのか俯いて顔を赤くさせるカゲミツが愛しい。
悔しそうに握り締めた拳の上に自分の手を重ねる。

「もしかして、初めてだったとか?」
「・・・んな訳、」
「図星か」

クスクス笑って可愛いなぁと呟く。
元々可愛いと思っていたけれどここまでなんて予想外だ。
少し気に掛けて貰おうと手を出したら、自分が先に嵌まってしまった。

「いい加減離せ!気持ち悪い!」
「やだ、だってイチジョウ君可愛いし」
「か、可愛いくなんかねーし!」

なんとか腕から逃げようとするので腕に力を込めて密着した。
まだ言わないでおこうと思ってたけど、予定変更だ。
耳元に唇を寄せるとカゲミツがふるりと震えた。
それが愛しくてぺろりと舐めてから低い声で囁く。

「好きだよ、カゲミツ」

それだけ告げるとカゲミツをぱっと解放した。
そんな戸惑った顔されると、またキスしたくなってしまう。
そんな衝動を抑えてニッコリと微笑む。

「だからシャツそんなに開けないでね」
「どういうことだよ」
「他の人に見られたら嫌だからね」
「意味わかんねぇ」

それでも締める様子のないカゲミツに強行手段に出る。
シャツを出来る限り手で広げ、全開になった鎖骨に思いっきり吸い付いた。

「痛っ・・・」
「これで開けたくなくなるはずだから」
「どういうことだ・・・?」
「鏡見てみなよ、じゃあね」

そう言って手を振って屋上を出た。
明日カゲミツがどんな風に登校してくるか楽しみだ。
浮かれる気持ちを抑えて帰り道を歩いた。

その頃、トイレではカゲミツの声が絶叫していた。

「アイツぜってぇー許さねぇ!!」

おわり!

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