▽10/12 00:44
仕事も終わりさぁ帰ろうかと立ち上がったとき、同じように帰り支度を整えたカゲミツに声を掛けられた。
「おい、カナエ」
「何?」
少し睨むような目つきで何も言わず顎で部屋を出るようにと促す。
端から見たら一触即発の雰囲気に見えるが決してそういう訳ではない。
事実、睨むような瞳はゆらゆらと揺れている。
これは素直じゃないカゲミツの精一杯のお誘いなのだ。
慌てて間に入ろうとするタマキに大丈夫だと伝えカ二人で部屋を出た。
とりあえず人気のないところ、と考えてカゲミツがよく行く公園と向かった。
周りに人がいないことを確認してからカゲミツが口を開いた。
「今からカナエの家に泊まりに行きたい」
「別に構わないけど何もないよ?」
「今日ヒカルがいないんだ」
「寂しいんだ?」
恥ずかしいのか顔を逸らしたカゲミツの顔を覗き込む。
うるせぇと小さな声を聞いて苦笑しながら手をひいて立ち上がらせる。
「カゲミツ君から甘えてくれるなんて、嬉しいな」
「べ、別に甘えてなんか・・・!」
顔を赤くして言ったって説得力はこれっぽっちもないのに。
掴んだ腕はそのままに歩き出した。
「お前本当にここで生活してんの?」
「一応ね」
必要最低限のものしか置かれていない部屋にカゲミツが目を丸くした。
ワゴン住まいのカゲミツだって同じようなものなはずなのに。
勝手に冷蔵庫を開けて何もねぇと眉を寄せるカゲミツに苦笑いする。
「ほとんど買ってくるからね」
「カゲミツ君だってそうでしょ?」
「そりゃそうそうだけど・・・」
「可愛い恋人がいたら一緒に作るんだけどね」
さりげなく一緒に住みたいとサインを送る。
これで気付くとは思っていなかったけど、むっとした表情は予想外だった。
「だったら可愛い女の恋人でも作ればいいだろ」
帰ると荷物をまとめ始めたカゲミツを慌てて宥める。
普段は相手の気持ちに敏感なくせにこういうところは弱い。
だからそんなカゲミツに伝わるようにストレートな言葉を選ぶ。
「カゲミツ君じゃなきゃ嫌だよ」
「俺料理作れねーし」
「二人で頑張ろう?」
後ろから抱き締めて逃げないようにぎゅっと力を込める。
最初は抵抗したけどしばらくすると大人しくなった。
「・・・考えとく」
「ありがとう」
カゲミツの小さな言葉を聞いて腕の力を弱めた。
二人で買い出しに行って料理を作ろうかと思ったけど、生憎この家には調理機具はほとんどない。
いつか二人で一緒に住む日まで取っておこう。
「ご飯買いに行こっか」
「・・・そうだな」
近所のスーパーで適当に夕食を買い、家に帰って向かい合って食べる。
家族みたいだなと思っているとカゲミツも同じことを思っていたようで二人で笑う。
何でもない夕食がとても美味しく感じられた。
夕食の片付けをしている間にカゲミツを風呂に向かわせた。
片付けを終え、寝る準備をしていると不満げなカゲミツが風呂場から出て来た。
「お前とほとんど身長差ねぇのに」
そう言って顔を下に向ける。
大きさはいいが若干ぶかっとした感じで、服に着られているという感じだ。
「お前だって細身なくせに」
「俺は筋肉があるからね、見たことあるでしょ?」
含みを持たせるように聞くとカゲミツが俯いた。
「俺、筋トレする」
「ナオユキ君みたいになるのはちょっと・・・」
「それは無理だろ」
カゲミツの冷静なツッコミにまた二人で笑って風呂に向かった。
カナエが風呂から上がるとカゲミツがベッドの上で体操座りをしていた。
その姿がちょっと可愛いなんて言ったら怒りそうだけど。
「待っててくれたの?」
「さすがに家主より先に寝れねーだろ」
「それってお誘いかな?」
「違っ!」
顔を赤くするカゲミツの肩に手を回してゆっくりと体を横たえる。
「じゃあ今日はゆっくり寝よう」
そう言ってカゲミツを腕の中に収める。
おやすみと囁いて部屋の電気を落とした。
「パジャマ買ってねぇとな」
「・・・え?」
「いきなり一緒に住むのはアレだから、時々お前の家に泊まりに来てやるよ」
眠ろうとしてから数分後、カゲミツが唐突に声を上げた。
何のことかと思えばさっき答えだと分かり顔が熱くなる。
背中を向けたままのカゲミツに安堵しながら腕に力を込めた。
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