▽09/15 23:42

「ちゃんと帰って来るから、それまで待ってて」
「・・・本当に大丈夫なのかよ」
「淋しがり屋なカゲミツ君を置いて行けないからね」

淋しくなんかねーと言いつつ腕を絡め肩に顔を押し当ててくるカゲミツの髪をカナエの指が梳く。
カゲミツの表情が見たいが顔が離れる様子はない。
仕方なくまたカゲミツの髪に指を通して遊ぶ。

「言葉も可愛いと嬉しいんだけど」
「・・・行くな、なんて言えるかよ」

震えた声にカナエが目を瞬かせる。
本当は行って欲しくないのにそう言えない不器用さに愛しさが込み上げる。
止めないでくれと言ったのは自分だけど少しくらいそれを出してもいいのに。

「淋しい思いをさせるけど、ごめんね」

そう言ってもカゲミツは顔を上げない。
小さく漏れた嗚咽が聞こえてカナエがカゲミツの顎を持ち上げて口付けた。
予想していなかったのか見開かれた瞳がゆっくり閉じられるのを見ながら舌を絡める。

「俺のために泣いてくれなくていいのに」
「お前のためじゃねぇし」

気を失うまで存分に愛し合い、カゲミツが目を覚ます前にカナエは部屋を出た。
しばらく会うことはないだろうと寝顔を目にたっぷりと焼き付けて。


カナエが全部決着をつけると言い出したのはもう一年半も前のことだ。
カゲミツと出会い、愛し合うようになって初めて自分の意思で生きたいと思ったからだ。
もうアマネの人形でいるのは嫌だと言ったカナエの横顔をカゲミツは思い出す。
決意を秘めた目にカゲミツは何も言えなかった。
危険だ、やめてくれなんて言葉じゃ止められそうになかった。
必ず帰ってくるという言葉を信じて待ち続けて一年半。
もう会えないんじゃないかなんて考えそうになって首を振る。
カナエは嘘が苦手なんだから、必ず帰ってくる。
そう信じカゲミツは今日もカナエの帰りを待ち続けるのだ。

ヒカルがキヨタカの家に行くと言うのでカゲミツは深夜にも関わらずミーティングルームにいた。
ワゴンで一人で過ごす気分にはなれなかった。
バンプアップで少し酒を飲んでから誰もいないミーティングルームでキーボードを鳴らす。
深夜一時を過ぎた頃だった。
キィーっと音を立てて開いたドアに眠たい頭が起こされる。

「やっぱりここにいると思った」

柔らかく笑ったのは待ち侘びて焦がれて仕方なかったカナエだ。
以前より少し痩せた気がするが見間違いないようがない。
驚いて呼吸が止まっているカゲミツにカナエがゆっくりと近付く。

「全部、終わらせてきた」

すっきりとした表情のカナエがふわりと笑った。
一年半前に見え隠れしていた影がなくなっているように見えた。
カナエの指が優しく確かめるようにカゲミツの顔の輪郭をなぞる。
驚いたままのカゲミツは瞬きもせずにされるがままになっている。

「ただいま」
「お、か・・・えり」

言葉に出して初めてちゃんと実感出来たようで、しがみつくようにカナエに抱き着く。

「おせーよ」
「ごめんね、でも約束は守ったでしょ?」

カゲミツを引きはがして左手を胸の前まで持ち上げた。
ちゃんと全部終わらせてきたから、とカナエがポケットをがさがさと探る。
ポケットの中から剥き出しの指輪が出て来て驚く間もなくカゲミツの指にはめられた。

「まだ綺麗になりきれてないかもしれないけど」

結婚しようと言ってカナエが指輪にそっと口付けた。
ぼろりぼろりとカゲミツの目から大粒の涙が落ちる。
カナエが戻って来る確証もなかったし、戻って来ても以前の関係に戻れるかと心配していたカゲミツの心配は杞憂だった。
震えて声が言葉にならない。
だから言葉の代わりにもう一度ぎゅっとカナエに抱き着いた。
もう離れないというように強く、強く、力を込めて。

end*

あんまり強引なキスになりませんでした←
ここ書くなら頂いたリクエスト書けよという話ですね←
しかし思い付いたときに書かないと忘れちゃいますからね。
こことmainの更新する比率が5対1くらいな気がしてきました←
しかも小ネタという自分内の位置付けの割に毎回長い。

home top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -