▽09/10 20:20

9回裏2アウト、ランナー三塁。
スコアは1−2の一点ビハインドでヒットが出れば延長戦という場面。
2ストライクノーボールと簡単に追い込まれてしまったタマキに、観客から応援の声に混じって怒号やため息が聞こえる。
ここで打たなければチームは負けてしまう。
優勝を争う2位チームとの首位攻防戦、負ければ首位陥落。
そのプレッシャーを痛いほどタマキは感じていた。

「タマキ」

喧騒の中バッターボックスから出て集中するために目を閉じて一呼吸すると、自分を呼ぶ声が聞こえてをベンチを見る。

「お前なら出来る、大丈夫だ」
「キヨタカさん・・・」

そこにはピッチャーにとってはなくてはならない存在のキャッチャーであるキヨタカがいた。
いつもと変わらぬ余裕の表情でベンチの最前列に立ち、目が合うといつものように大丈夫だと頷いてくれた。
たった、たったそれだけのことなのに酷く安心する自分がいてタマキは驚いた。
もう一度ゆっくり目を閉じるともう周りの音は聞こえない。
絶対に打てる、そんな気がしてもう一度バッターボックスに立った。
ランナーが三塁にいるせいか、相手がピッチャーだからか。
マウンド上のピッチャーは大きなモーションを取り投球動作に入る。
本当なら素早いはずのその動作も、スローモーションのようだ。
140km/h以上のスピードで近付いてくるボールもしっかりと見える。
タイミングをはかり、バットを少しひいてから腕を振り切ると乾いた音を立ててボールが遠くの方に飛んでいった。
少し手がじんじんするけれど、まずは一塁に向かって走らなければ!
全力で駆け抜けて一塁ベースの上で息を吐き出すと、ようやく周りの歓声が聞こえた。
ポンとお尻を叩くコーチの手が痛い。

「やったな」
「・・・え?」
「同点タイムリーだよ、よくやった」

その言葉に周りを見渡せば観客がメガホンを叩き合って喜びを表現している。
ベンチの方に顔を向ければキヨタカが当然だという表情で笑っていて安心する。
次のバッターが空振り三振に倒れてしまい、勝ち越すことは出来なかったが延長戦に持ち込むことが出来た。
ベンチに戻るとみんなによくやったと頭をポンポンと撫でられた。

「キヨタカさんのおかげです」
「よし、じゃあその調子でもう1イニング投げ切れよ」
「ハイ!」

キヨタカに言われるともう1イニング何としても抑えられる気がした。
決意を込めてキヨタカを見ると、物陰の方に手をひかれた。

「おまじないだ」

そう言ってキヨタカのが落ちてきてタマキが目を見開く。
しかしキヨタカは何も気にしていないかのように歩き始めていた。
これは何としても0で抑えなければ。
タマキはそう固く誓ってマウンドへと向かった。

三者凡退で終えたその裏の攻撃、1アウトを取られたあと打順がキヨタカに回ってきた。
相手はリーグを代表するクローザーだがキヨタカは余裕の表情を浮かべている。
タマキは交代時のお前を勝ち投手にしてやるといいキヨタカの一言をを思い出していた。
そのときはまさかと思っていたが、カキーンという音とともに高く上がった打球は綺麗な放物線を描いてファンが待つ外野スタンドに入った。
今日一番の歓声が球場に響き渡る。
マウンドのピッチャーはがくりと膝をついて打球の入った方を眺めていた。
チームメイトが我先にとキヨタカに駆け寄っている。
タマキも来いよという声で漸く我に返った。
ホーム付近でもみくちゃにされるキヨタカに近付いて、どさくさに紛れぎゅっと抱き着く。
するとキヨタカもどさくさに紛れ軽く抱き返してくれた。
一通り手荒な祝福を受けてからヒーローインタビューのために歩くキヨタカに腕を引っ張られた。

「今日はお前もヒーローだ」

その横顔に、不覚にもときめいてしまった。

「タマキが頑張ってたから絶対打つ気で打席に入りました」

インタビュアーのどんな気持ちで打席に入りましたかという質問にそう答えるキヨタカに顔が熱くなってしまう。

観客にサインボールを投げ終え、ロッカーに向かう途中でキヨタカが低い声で耳打ちをした。

「今日は頑張ったんだから、ご褒美くれるよな?」
「・・・ハイ」

誰も見ていないことを確認して、こっそり唇を重ねた。

end*

頼りがいのある捕手×新米投手的な←
数年前、応援チームの新米投手陣が揃って捕手さんのおかげです!と言っておりまして。
投手から捕手の信頼って、半端ないなぁと思っていました。
それを脚色に脚色を重ねてみました。
予想はしてたけどその捕手は今年引退です(つA`)悲しい・・・。

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