▽08/26 01:17

「大丈夫かい、カゲミツ」
「あぁ、オミは?」
「こんなの大したことないよ」

カゲミツが大きく息を吐き出して天井を見上げる。
こんなことなら誰かに一言声を掛けてこればよかったと後悔してももう遅過ぎる。

昨日も作業をしていると、たまたま今J部隊が追っているテロリストの情報が手に入った。
アジトの場所まで入手し、まずは盗聴器を仕掛けようとしたところでオミに声を掛けられた。

「ねぇ、俺にやらせてよ」
「出来んのかよ」
「ヒカルとカゲミツに教えてもらったんだから大丈夫だよ」

二人(一人は元テロリスト)なら大丈夫だろうというのが甘かった。
誰もいないと思っていたアジトに侵入したところテロリストに鉢合わせし、為す術もなく二人で拘束されてしまった。
しかもヒカルを驚かせたいという理由で誰にも言わずに来てしまった。
後からキヨタカに怒られるのは確実だろうが、まず生きている間にもう一度会えるのだろうか。
そこまで考えて顔から血の気が引いていくのがわかった。
数年の間に何度死を覚悟するんだろうか、実戦部隊でもないくせに。
結局、タマキからの返事は貰えないまま死んじまうのか。
はぁ、カゲミツがまた大きく息を吐き出したのを聞いてオミが口を開いた。

「今幸せが逃げたよ」
「こんな状況で幸せも何もないだろ」

こんなに悲観しているのは自分だけなんだろうか。
ちらり盗み見たオミは全く気にしていないと表情だ。

「お前は怖くねぇのかよ」
「カゲミツは怖いの?」

質問を質問で返されしまった。
ここで怖いというと自分が格好悪いみたいでカゲミツが口ごもる。

「大丈夫、カゲミツは俺が守ってあげるから」

柱に後ろ手にくくりつけられたままオミの指がカゲミツの指に触れる。
言葉といい指といいオミがいることで酷く安心している自分に気付いた。

「口だけじゃ何も出来ねぇだろ」
「そんなことないよ」

オミの言葉ひとつにこんなにも救われるなんて。
ホッと目を閉じると、扉が開ける音が聞こえて慌てて目を開いた。
いかにも悪人といった面構えの男がつかつかと近付いてくる。
グッと体に強張らせると触れているオミの指に力が込められた。
顔は男を見ていたが、大丈夫だと言われているような気がした。

「お前ら誰だ?何のためにここに来た?」
「そんな聞き方で答えると思ってんの?」

捕らえられているのに挑発的なオミの態度に目を見開く。

「口の聞き方には気をつけた方がいいぞ」
「それ、脅しのつもり?」

ナイフをちらりと見せた男にオミがくすりと笑う。
コイツ、またゲームと思って楽しんでるんじゃないだろうな。
目の前の男は顔を真っ赤にしている。
完全に怒らせてしまったようだ。

「こっちが手を出さないからいい気になりやがって」

グッと男がオミの襟を掴んでもまだ余裕そうに見ている。
表情だけ見るとまるで立場が逆転しているみたいだ。
黙って二人のやり取りを見つめていると男がふいにオミから手を離した。
首が絞まっていたのか、こほんこほんと咳をしている。
大丈夫かと声を掛けようとしたら、男に顔を掴まれた。

「アイツは生意気だからお前に聞くことにするよ」

アイツと違って賢そうだしなと男は下品に笑った。
オミは自分を守ると言ってくれたが自分だってオミを守りたい。
カゲミツが口を開く前にオミが口を開いた。

「俺の口を割れる自信がないんだ?」

テロリストも案外小心者なんだねとオミがバカにしたように笑う。
一体コイツは何をやっているんだ!
その一言でカゲミツに移っていた視線がまたオミに戻った。
拳を力いっぱい握り締めてオミの右頬を殴る。

「オミッ!」
「こんなの平気だから」
「この野郎!」

次は反動をつけて腹を蹴飛ばす。
ゴホッと大きく咳込んだのを見て男がニヤリと笑った。

「これで喋る気になったか?オミ君」

男はハハハとバカにしたように大声で笑う。
蹴りが効いたらしいオミは俯いて何も言うことが出来ない。
ただ黙って見つめることしか出来ない自分が歯痒くて仕方ない。

「お前にはそんなことしないからな」

オミの髪を乱暴に引っ張っていた手が突然カゲミツの頬を撫でる。
思わず上げた小さな悲鳴にオミが気付いたようだ。

「そいつに触んな」
「仲間意識が強いんだなー、オミ君は」

また男がオミの腹を蹴りを入れる。
苦しそうに顔を歪めるオミをもう見ていられなかった。

「全部話すからもうやめてくれよ」

男が満足げにニタリと笑ったとき、ドアがバタンと派手な音を立てて倒れた。

「うちの可愛い部下がお世話になったみたいだな」

もくもくする煙の中、うっすらと見えたのはよく知る黒いコートでずるずると力が抜けていく。
男が驚いてカゲミツを人質に取ろうとするがアラタの方が一足早かった。

「カゲミツ君にそれ以上触ったら、どうなるかわかるよね?」

ニッコリと笑ってキラリとサバイバルナイフを光らせる。
反抗する暇もなく男は捕まり、二人は無事解放された。

「カゲミツ君大丈夫?」

顔が青いよというカナエの言葉を無視しとオミに近付く。
拘束していた縄を外されオミはぐったりしてしまっている。

「大丈夫か?!」
「俺が守るって言ったでしょ?」

だるそうに手を上げてカゲミツの髪をぐしゃぐしゃと撫でる。
無理矢理笑った顔が見ていて痛い。

「バカじゃねーの」
「時間さえ稼げれば助けにきてくれると思ってたからね」
「なんでそんなこと言えるんだよ」
「これだよ」

オミはそう言って自分の胸をトントンと叩いた。
訳がわからないという表情でオミを見る。

「心臓の爆弾にGPSがついてるんだよ」

だから俺の居場所はすぐに分かるんだとオミは笑った。
いつも明るく過ごしているからすっかり忘れていたその事実に胸が痛くなる。

「オミ・・・」
「そんな顔しないでよ」

オミの手が優しく頬を撫でる。
さっきとは違い、その手に酷く安心する。
無意識のうちに自分の手を重ねていた。

「カゲミツ・・・?」
「・・・あっ」

名前を呼ばれて慌てて手を離した。
なんでこんなにドキドキしているんだろう。

「二人仲良くしてるところ悪いが、お前達には説教だ」

キヨタカの言葉に反論することすら出来ない。
(どうなってるんだ、俺?)
タマキとはまた違う胸の高鳴りを感じつつ、病院へ行くために立ち上がったのだった。

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