▽11/17 23:06

カランカランと音を立ててバンプアップのドアが開く。

「おはよう」

涼やかな声でそう言っていつもの席に座ったオミにマサキがおはようと返す。
その後におはようございますと返すとオミはちらりとマスターを見上げた。

「今日はマスターも任務に参加するの?」
「ああ、そうだ」
「任務の前に車内でアニソン流すのはやめて欲しいんだけど」

テンションが上がるだろうと言うマサキの言葉にオミが眉を顰める。
これ以上この話を続けるのは危険だと判断したのか、お腹空いたんだけどと話を遮った。
何がいい?いつものでで通じる間柄を見ていると、少し前まで彼がナイツオブラウンドにいたことが嘘のようだ。

「コーヒーは君に頼める?」

マスターが淹れるより美味しいんだと言われ嬉しいけれど、少し引っかかる。
マサキはもうこれから朝飯作ってやんないぞなんて言っているが、オミはもちろんマスターが淹れるのも美味しいよとフォローを忘れない。
口では全く、なんて言いながら満更でもない表情を浮かべている。
切れ長な瞳はクールで人を寄せ付けない雰囲気を纏っているように見えるのに、オミは人の懐に入り込むのが上手い。
きっと人との距離感を測ることに長けているのだろう。
ご所望のコーヒーを差し出すと、オミは口をつける前にいい香りだねと微笑んだ。
マサキから渡されたホットサンドをいただきますと言って手に取る。
ホットサンドを食べる、ただそれだけなのにオミの動きは気品があって美しい。
思わず見惚れていると、裏からマサキの叫び声が聞こえ我に返った。
どうしたんですか?と尋ねるとコーヒー豆を買いに行くのをすっかり忘れていた、と軽くなった袋を持ってマサキが出てきた。
買いに行きましょうかと言ったら俺が行ってくるよと言って店を出て行ってしまった。
唐突に訪れた二人きりの時間に少し緊張してしまう。
ごくりと唾を飲み込んで今日はこの後どうするんですかと尋ねた。

「バイト君から話しかけてくるなんて珍しいね」

そう言って柔和な笑みを浮かべてコーヒーに口をつけた。

「今日はもう少ししたらカゲミツの買い物に付き合わされるんだ」

一人で買い物も行けないなんて、どこまでお坊ちゃんなんだろうね。
自分も華族出身なのにそんな事を言う。
思わず笑ってしまうと、オミが驚いたように目を瞬かせた。

「どうかしましたか?」
「いや、君も笑うんだね」

自分はオミにどう思われているのだろうか。
確かに感情表現は豊かな方ではないと自覚はしているけれど、少し笑ったくらいでそんなに驚かれるものだろうか。
そんな事を考えていると、オミがねぇと声を掛けてきた。

「君は感情を表に出すのは苦手かもしれないけれど、もっと笑った方がいいよ」
「なぜですか?」
「無表情より笑った顔の方がいいに決まってるだろ?」

人懐っこい顔に見上げられて思わずどきりと胸が高鳴る。
きっとこの人は思った事を素直に言っているだけだ。
それを示すかのように、カゲミツもそうだけどずっと仏頂面なんて勿体ないと付け加えた。
ああ、ほらやっぱり。
オミにはその場にいなくてもずっとカゲミツの存在が頭にあるのだ。

「まあバイト君はカゲミツみたいに仏頂面って訳じゃないんだけどね」

そう締め括ったオミの名前を呼んだのは無意識の行動だった。

「なぜバイト君としか呼んでくれないんですか?名前を知っていますよね?」
「さあどうだろ?」

ナオユキやユウトは名前で呼んでいるのだ。
知らないはずなんてない。
なのに涼しい顔でそうとぼけてみせるのだ。
なぜと問い詰めるより先にオミが口を開いた。

「俺はこの距離感が心地良いと思ってるんだ」

ごちそうさま、今日も美味しかったよ。
そう言ってバンプアップを出て行ってしまった。
その後ろ姿をじっと見送ることしかできない。
きっとこれは気持ちを察した上での遠回しの拒否、ということなんだろう。
人との距離感を測る事に長けているからこそ、これ以上踏み込ませてくれない。
軽く唇を噛んでオミの座っていた席に目を向ける。
容易いと思っていた願いは、どうやら叶いそうにないらしい。
心がちくりと痛むのを感じながら綺麗に重ねられた食器に手を伸ばすのだった。

*

後から読み返してみれば四月馬鹿のお話をなぞっただけみたいになっていましたが、もうそのままいっちゃいました

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