▽02/09 01:45
なんとなくイメージはある。
いつもは描き始めたらそれがどんどん具体的になるのだけれど、今日は最初の一歩を躊躇ってしまう。
何度かそれを繰り返し今日はダメだと溜め息をつくと、後ろから声を掛けられた。
「だいぶスランプに陥ってるみたいだね」
「オミ?」
驚いて後ろを振り返ると、いつもと同じように洒落たスーツを着たオミが入り口に寄り掛かっていた。
手にはマグカップを持っていて、ゆらゆらと湯気がたっている。
「お前、何勝手に入って来てるんだよ」
「ノックはしたけど返事がなかったから、何か描いてるのかと思って」
悪びれる様子もなく言ってのけ、美味しそうにコーヒーを啜っている。
あ、カゲミツセンセーも休憩するなら淹れようか?とまで言われ文句を言うのをやめた。
ここに勝手知ったる様子で淹れるのはコイツくらいなもんだし。
頼むと短く告げると了解と言って奥に消えた。
*
「カゲミツがスランプなんて珍しいね」
アトリエからリビングにオミに淹れて貰ったコーヒーに口をつける。
コイツの淹れ方が上手いのか何度飲んでも自分のより美味しい気がする。
香りもいつもよりずっといい。
目を閉じてその香りを味わっているとオミがねぇと話し掛けてきた。
「スランプの中、無理矢理描こうとしてもいい絵は生まれないよ」
それは今まで何人の画家を見てきたオミだから言えるし説得力もあるのだろう。
だけど、絵を描く以外にやることがないのだ。
黙ってオミを見遣るとアイツは子どもみたいに笑ってみせた。
「だから今日は一緒にどこか出掛けよう」
「はあ!?」
初めて会った時から突拍子もないことを言う奴だと思ってはいたけれど。
目を丸くするカゲミツなんかお構いなしにどんどんと話を進めていく。
「あぁ、あの公園なんてどうだい?」
近くにあるらしい大きめな公園の名前を出されて思い浮かべる。
そういえばもうここに何年も住んでるけど行ったことねぇな。
そんなことを考えていると、黙っていることを了承だと受け取ったらしいオミが立ち上がった。
「カゲミツはずっと描きっぱなしなんだからさ、たまには休んだっていいじゃん」
カップ洗ってくるから着替えて来てと完全に主導権を握られたらしい。
たが意外とそれも悪くない。
絵の具で汚れた服を着替えるためにカゲミツも自分の部屋へと戻った。
*
オミの言っていた公園は自分が思っている以上に近くにあった。
しばらく歩き回ってから空いてるベンチに二人で腰掛ける。
犬の散歩をする老夫婦やランニングする人が目の前を通り過ぎていく。
「外の世界を見たのも久し振りでしょ?」
「最近ずっと篭って描いてたからな」
「最近っていうかいつもじゃん」
おかしそうに笑ったオミがソフトクリームを一口食べた。
美味しいと言うのでカゲミツも一口食べてみる。
「甘っ!」
「そう?カゲミツこういうの好きじゃなかった?」
「いや、悪くないよ」
「そこは嘘でも美味しいって言っとけよ」
冗談っぽく怒ってオミはまたソフトクリームを一口食べた。
どこにでもあるような日常の風景に自分が紛れ込んでいるのが、どこか面映ゆい気持ちだった。
その後またどうでもいい話をしながら家に帰ってくると、もう夕方と呼べる時刻になっていた。
あの公園は自分が思っていた以上に大きかったらしい。
玄関までついてきたオミが帰り際にこういうのも悪くないだろ?と言った。
だから行ってよかった、イメージが湧いてきたと答えると自分で言ったくせに目を丸くさせた。
「カゲミツが素直だと調子狂うね」
「お前がそうしろって言ったんだろ」
「そうだけど…じゃあ次は別のところに連れて行ってあげるよ」
「楽しみにしてるよ」
本心をそのまま告げると一瞬オミが面食らった表情になった。
「カゲミツセンセーの期待を裏切らないように頑張らなくちゃね」
「期待してるぜ」
そう言うとオミはじゃあなと言って帰って行った。
服を着替えてアトリエに行くとさっきまで悩んでいたのが嘘みたいにイメージがはっきりとしている。
困ったらアイツに頼ろうかなと考えながら、カゲミツは再び筆を握ったのだった。
*
パロってあんまり書いたことないと思うけど楽しいね\(^o^)/
オミさんは意識的に好意を抱いてて、カゲミツは無意識に好意を抱いてる感じ?
あとカゲミツは抽象画を描いてるっていう設定でした
ついったで上半期に五本書くって言ってて終わったので、後はここで細々と更新していきたい
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