▽06/11 23:56
「僕、遊園地に行ったことないんだ」
発端はアラタが談笑中に放ったこの一言だった。
なんてことない風に言ったアラタに、気付けばタマキはじゃあ今度一緒に行こうと口にしていた。
それにお節介焼きなトキオがじゃあみんなで行ったらいいじゃんと乗っかる。
そういうところは大人数で行った方が楽しいだろうとキヨタカまでも話に加わったため、J部隊で遊園地に行くことが決定したのだった。
定位置のソファーで乗り気でない顔をするカゲミツにそっとトキオか近付く。
「お前も行ったことないだろ?」
「確かに行ったことはねぇけど…」
でも面倒だと口ほどに訴える目に苦笑してチラリとキヨタカを見遣った。
「キヨタカ隊長も乗り気だし、行った方がいいんじゃない?」
土日は混むだろうとヒカルとパソコンをチェックし始めたのをカゲミツも確認して仕方ねぇと覚悟を決めた。
それから二週間ほど経ったとある日、J部隊は全員揃って近くの遊園地に来ていた。
喧嘩しながらもはしゃぐアラタとレイが着くなり乗りたいと指差したものが同じで、タマキは喧嘩するほど仲がいいというのを実感しながら二人の後姿を追い掛ける。
その後カナエ、ナオユキ、ユウトが和やかに喋りながら続く。
俺は別に良かったのにと悪態をつくオミに、お前も来たことなかっただろとトキオが答える。
カゲミツが本当にお節介だと思うがそれがトキオの良いところであるから口には出さずその様子を眺める。
そして一番最後にキヨタカとヒカルが並んで歩く。
アラタとレイに付き合いあれやこれやと乗っているうちにお昼近くになり、揃って食事をしているとキヨタカが口を開いた。
「では俺はそろそろ帰るとするか」
ヒカルも連れて帰るぞと告げてキヨタカが席を立ち上がった。
お疲れ様でーすとトキオは軽く言っているが、目はヒカルの方を向いている。
休みの日にも仕事なんて大変だななんて呟くタマキに違うだろと突っ込める訳もない。
お腹も膨れたしとまた絶叫マシーンに向かおうとするアラタとレイに待ったと声が掛かった。
「俺、今あれに乗ったらヤバイかも」
カゲミツがうっすらと顔を青くさせて二人の向かう先を指差す。
するとトキオも俺もと手を上げた。
「お兄さんも疲れたからカゲミツと休憩してるよ」
だからみんなで行っておいでと明るく手を振ると、じゃあまた後でねーと二人は走り出してしまった。
タマキ達も無理するなと声を掛けて二人を追い掛ける。
しばらくして二人になったトキオにカゲミツが行かなくてよかったのかと尋ねると、それ聞く?と苦笑いをしてみせた。
「せっかくだから二人っきりで楽しみたいじゃん」
ナチュラルに出た言葉にカゲミツが顔を赤くした。
何も気にせずに歩いていたが、トキオがふと立ち止まったのでカゲミツも立ち止まった。
「これ乗らない?」
冗談めかして言っているが、多分トキオは本気だ。
それを見抜けないほど二人は浅い関係ではない。
だけど少し躊躇っていると、トキオが今日の夕食にお前の食べたいものを作ってやるからとカゲミツが了承しやすいように逃げ道を作ってくれた。
「じゃあ今日はチャーハンな」
「りょーかい」
冗談めかした表情のままだけど目は本当に嬉しそうににしていて。
本当はチャーハンが食べたい訳から乗るんじゃないと、言わなくてもトキオには伝わっている。
だから早く行くぞと声を掛けて、カゲミツは先に観覧車のゴンドラに乗り込んだ。
ぐらりぐらりと不安定に揺れながら二人が乗ったゴンドラは上に向かい始めた。
外を眺めていたカゲミツがヘリの方がよく見えるなんて言うから、ムードがないとトキオが笑う。
「ムードって」
「観覧車っていったら、てっぺんでちゅーでしょ」
そんなことは聞いていない。
カゲミツが驚いて視線をトキオに戻すと、真剣な顔で見つめられた。
「ねぇ、キスしてくれない?」
と言ってもここは外だし、前後に乗っているゴンドラから中が見えてしまうかもしれない。
いくら真剣な顔で見られてもこれは受け入れられない。
「ダメだ」
顔をふるふると横に振るとトキオは不貞腐れたように窓の外を眺め始めた。
カゲミツが嫌がる理由は予想出来ていると思う。
ある程度それも理解してくれてると思うけれど、それでもトキオはしたかったのだろう。
珍しく子供っぽい姿を見せるトキオの肩をトントンと叩いてみた。
だけどすぐには振り向いてくれなくて、どうしようかと考えていると不機嫌そうな顔がなんだと振り返った。
「今はこれで我慢しろよ」
そう言って頬にキスをすると驚いたように目を見開いた。
そしてガバッと顔を俯かせたので作戦失敗かと思ったがそれはカゲミツの思い違いだったらしい。
「お前ずる過ぎ」
ほんの小さい声で言われてこんな姿は珍しいとカゲミツが目を瞬かせる。
だけどすぐにはいつもの表情を取り戻したトキオが、帰ってから楽しみにしてるからとニヤリと笑った。
おう、楽しみにしとけよ。
そう思ったけれど口には出さず、カゲミツはわかったとだけ告げたのだった。
ついった診断メーカーより
カゲミツにキスをねだってみたがだめだと言われたのでふてくされて背を向けていると、後ろから肩を叩かれた。少し間を置いてから振り返ると、今はこれで我慢してと頬にキスをされた。もう、本当にずるい。
でした!
オミカゲでもカナカゲでもトキカゲでも同じシチュエーションで妄想膨らんで全部萌える!って思いましたが、このお題お兄さんだけ微妙なやつが出たのでトキカゲにしちゃいました。
ちなみにカゲミツはちゃんと手早く出来そうな料理をチョイスしてると思います。
そしてお兄さんもそこに気付いているという地味な裏設定でした∧( 'Θ' )∧
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