▽06/08 03:19

「カゲミツはつつじの蜜吸ったことあるか?」

それはたわいない会話だった。
つつじが咲いていて綺麗だという話から始まり、子供時代の思い出に花を咲かせていたタマキがふいにカゲミツにそうまい話題を振ったのだ。
子供の頃、学校の帰り道に一度や二度くらい経験があるだろう。
…カゲミツが普通の子供だったならば。
しかしカゲミツは華族出身のいわゆるお坊ちゃんだ。
一瞬の間を置いてからぽかんとした顔でつつじって何だ?と尋ねたのだ。
ワイワイとしていた仲間の空気が少しざわつく。
いつもはこういう時にヒカルやらキヨタカが間に入ってうまく茶化してくれるが、生憎今は二人とも不在だ。
忘れていると判断したタマキがフォローしようとしたが、結果的にそれが裏目に出てしまった。

「子供の頃、その辺に咲いてる花を摘んで吸わなかったか?」
「その辺に咲いてる花なんか吸えるのか?」

真顔で尋ねたカゲミツに一気にその場の空気が白けてしまった。
またやってしまったと思っても後の祭りだ。
カゲミツ君は何も知らないんだねというアラタの言葉を最後に、仲間達は武器の手入れを始めたり報告書を書き始めてしまった。
しゅんと項垂れながらカゲミツもノートパソコンに向き直す。
その様子をカナエはスッと冷えた表情で眺めていた。

みんなが帰ったミーティングルームでカゲミツは一人パソコンに向かって作業していた。
ワゴン車でやればいいのだが、今ちょうどいいところで手を離したくない。
移動の僅かな時間ですら惜しい。
そう思って黙々と打ち込んでいると、ふいにミーティングルームのドアが開いた。

「カゲミツ君、まだいたんだ」
「忘れ物でもしたのか?」

珍しい訪問者にカゲミツが顔を上げる。
困ったように眉毛を下げたカナエはいつも通りに見えた。

「うん、ちょっとね」

そう言って自分のデスクではなく、真っ直ぐにカゲミツの方に向かってきたカナエに目を瞬かせた。
断りもなくカナエが隣に座ったのでカゲミツは慌ててパソコンを離した。
ヒカルみたいにパソコンを壊されたら困る。

「カゲミツ君って、世間知らずだよね」

前触れもなく告げられた言葉にカゲミツが大きく目を見開いた。
動揺を隠し切れていない。
ポケットからハンカチを取り出して挟んでいたつつじの花を見せた。

「これがつつじだよ」

そう言って花の蜜を吸い上げた。
懐かしい蜜の味が、子供の頃の思い出と一緒に蘇ってきた。
J部隊の仲間達の知らない、黒くて暗い過去だ。
突然のカナエの行動に怪訝な表情を浮かべるカゲミツをソファーに押し付けた。

「その辺に咲いてるけど、食べれるんだよ」

そう言って甘さの残る唇をカゲミツのものに重ねた。
驚いて抵抗しようとするが、力でカナエに敵う訳がない。
薄く開いた唇から舌を差し込んでカゲミツの口内を蹂躙する。
苦しそうに歪む顔を見ていると、ぞくぞくしたものが背中を駆け上ってくる。
抵抗しようと肩にかけていた手が掴むようになったのを感じて、カゲミツの唇を解放した。
うまく空気が取り込めずに咳き込むカゲミツに満足感が広がっていくと同時に、もっとこんな顔が見たいという欲求が沸き起こってきた。

「カゲミツ君、キスしたこともないんだね」

羞恥からか怒りからか顔を赤くしたカゲミツにニッコリと笑ってみせる。

「世間知らずなカゲミツ君にキスの仕方を教えてあげる」

他の人とキスをする度に今日のことを思い出せばいい。
そう思って顔を近付けると震える声でカゲミツが聞いてきた。

「怒ってるのか…?」
「怒ってるというより、苛立ってるかな?」

顔には出さなかったけれど、カゲミツが世間知らずな発言をする度にカナエは苛立っていたのだ。
何の不自由もなくのうのうと育ったカゲミツには、今日食べる物すら確保出来るかわからないスラムの生活なんて想像もつかないに違いない。

「俺が何かしたなら謝るから…」
「謝らなくていいから、もっとその顔を見せて?」

そう言って抵抗しようとするカゲミツを封じ込め、再び唇を重ねる。
さっきよりももっと濃厚なキスをたっぷりとしてから、唇を離した。
さっきよりも苦しそうな顔に、唾液で濡れた唇がいやらしい。
湧き上がる満足感は征服感を満たされたからだろうか。
もっともっとと出てくる欲求を押し留め、カゲミツの耳元に唇を寄せた。

「またしたくなったらいつでも相手してあげる」

カゲミツの知らない声で囁くと、ぶるりと震えた姿が愛らしい。
涙目で見つめられ気分を良くしながらカナエは立ち上がった。

「じゃあおやすみ」

いつもの調子で言ってもカゲミツは反応を示さない。
なぜか高揚感を覚えながらカナエは家路についたのだった。

*

カナエがテンション上がってるのは無意識の中でカゲミツへの恋心を自覚した感じで読んで頂けると、ハッピーエンドになりそうな気がしませんか?←

お互いの境遇を知り合った上でカナエが不自由なく育ったくせにって言って、自由なんてなかったとカゲミツが説明して和解?という展開を考えたら楽しくなりました←

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