▽04/17 01:00

かつてはワゴン車で二人ほぼ同居状態だった諜報班だが、オミが加わり、ヒカルがキヨタカの家へ移り住み、さらにはオミとカゲミツが付き合うようになってからそんな日々からも解消されていた。
以前は横を向けば伝えられる距離だったし、ほぼ同居状態だから丸一日顔を合わせないなんてこともほとんどなかった。
しかし今はそれぞれが帰る家を持ち非番の日には顔を合わせないまま終わる日だってある。
だから業務日誌を作ろうと言い出したのはヒカルの提案だった。
メールを飛ばせばいいだろとオミは眉を顰めたが、カゲミツをこちら側に取り込んでしまえば言いくるめるのは難しくない。
こうして諜報班の業務日誌が作られることになった。
本当はヒカルの一般の会社っぽいことがしてみたいという我儘だったことは秘密だ。

始めの方はあの文句を言っていたオミですら真面目に日誌を書いていた。
いつもつんけんとした仮面をかぶっているけれど、根はいい奴なんだろうとヒカルは心の中で思う。
しかし三人の出勤がかぶった日、ヒカルの書いた一言がきっかけでそれが崩れ始めたのだ。
特に仕事について書くことはなかったけれど、ヒカルにはどうしても二人の冷め切った空気が気になっていた。
だから何が原因か知らないけれど空気が悪くなるから早く仲直りするようにと書いたのだ。

翌日は休みだったのでそのまた翌日、ヒカルが業務日誌のページを開いた。
するとオミからカゲミツが口を利かないんだからどうしようもないという返答があった。
その下にはお前が悪いんだろとカゲミツの字で付け加えられている。
業務日誌上で喧嘩されても困る。
だから言いたいことは話し合うようにと書き加えてそれを閉じた。
そしてまた翌日、ヒカルは業務日誌のページを開いた。
目に入ってきたのはだから話を聞いてもらえないんだというオミの文字。
思わず小さな声で逆ギレかよと突っ込んでしまったのも仕方ない。
そんな訳で今日もワゴン車の中は冷やかな空気が流れている。
必要最低限すらメールでやり取りしていて、顔を合わせるどころか一言すら喋らない。
正直間に挟まれた俺の気持ちも考えろよとヒカルは思う。
この状況は早く打破しなければならない。
多分最初の原因はオミだ。
何をしたかは知らないけれど。
まあだいたい察しはつくがそこは考えないでおこう。
それでカゲミツが怒って無視しているのはオミもある程度は覚悟していただろう。
だけどいくら謝ってもカゲミツはそれを許そうとしない。
多分それはカゲミツの悪いところだと思う。
これは長年隣にいた相棒としての勘だ。
オミもそこで謝っておけばいいものの多分あまりにも折れないカゲミツにイライラし始めたのだろう。
そして今の泥沼状態の出来上がり。
面倒臭い奴らだなと溜め息をつきたくなる。
お互い口を利く気はないが業務日誌の上でやり取りすることは大丈夫なようだ。
となれば。
ヒカルは業務日誌を開いて大きな字でこう書いた。
話し合う気がないならこのノートに思う分だけ書いたらだろ!と。
お互いイライラしているせいで進みが遅いのか、就業時間になっても帰ろうとしない。
変なところで似てるなと思いながらもヒカルはお疲れと告げてワゴン車を出た。

翌日、ヒカルがいろんな意味でドキドキしながらノートを開くと、そこには罵詈雑言から喧嘩の原因までが何ページにもわたって記されていた。
まるで交換日記のようだ。
これ俺も読むんだけど…と思いながらもページをめくる。
そして最後のページを見て深く溜め息を吐き出す。
恐らくこれを書いていたせいで自宅に帰らずワゴン車で眠ってしまった二人を叩き起こす。

「カゲミツ!オミ!起きろ」
「ああ…?なんでヒカルがいるんだよ」

寝ぼけ眼のカゲミツがあくびをしながらそう言い、オミは眠たそうな目でなんで起こしたと睨み付けてくる。

「もう朝だ!それよりお前ら…アホだろ」

喧嘩の原因は眠るカゲミツにオミがキスマークをつけたこと。
それから派生した不満などが書き綴られていたノートだけど、最終的にはオミの告白のようなものが書かれていた。
それに対するカゲミツは子どもみたいにバーカバーカと書いていて呆れて言葉が出てこない。
誰がどう見たって痴話喧嘩だ。
痴話喧嘩を業務日誌で堂々とやってのけたのだ、この二人は。

「で、仲直りしたんだな?」

そう尋ねると返ってきたのは二人とも見事な沈黙で。
さすがのヒカルの堪忍袋の緒が切れた。

「これ以上喧嘩を続けるならこれキヨタカに渡すぞ」

業務日誌なのだから上司にあたるキヨタカに渡したって問題ないだろう。
ほれと言わんばかりに二人を見ると観念したように仲直りするからと首を振った。

数日前の険悪な空気はとりあえずなくなったけれど今はどこか気まずい空気が流れている。
それでもイライラされるよりかはマシだ。
そう思いながらヒカルが思い付いたように口を開いた。

「あ、業務日誌は今日で終わりな」
「ヒカルが言い出したんじゃない」

なんでと言いたげなオミの目線をさらりと受け流す。

「また業務日誌でこんな小っ恥ずかしい痴話喧嘩されたらたまんねーからな」
「全部見るのかよ!」
「業務日誌なんだから当たり前だろ」

マジか…と項垂れるカゲミツに渋い顔のオミを見ながらこっそりとヒカルが笑う。
これが火種になってまた新たな喧嘩が起きそうになったけれど、キヨタカの名前を出すとすぐに鎮火出来た。
しばらくは切り札になりそうだ。
二人とは対照的に上機嫌でヒカルはまたパソコンに向き直したのだった。

*

交換日記はしそうにないので無理矢理交換日記にしてみました←
オミさんはヒカルに弱みを握られるようなヘマしなさそうなイメージですが、きっとイライラしてたのと深夜に及んだやり取りで眠くなっていた、ということにしておいて下さい

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