▽02/18 01:19

「カゲミツ君、今日飲みに行かない?」

かつての恋敵にそう誘われて一瞬考えはしたものの頷いたのは、今日は飲んで酔ってしまいたかったからだ。
今日、キヨタカがミーティングを始める前にトキオが話しておきたいことがあると言って前に出てきた。
隣にはタマキの姿があって何事かと思っていると改まった顔でトキオがこう告げたのだ。

「俺たち結婚しました」

二人の薬指には同じ形の指輪がきらりと光っていて、タマキは恥じらいながらも幸せそうに横に寄り添っている。
冗談にしては手がこみ過ぎだ、日本では同性の結婚は認められていないし。
そう言いたかったけれど次のトキオの言葉でこれが手のこんだ冗談じゃないことを悟った。

「ちゃんとした結婚は出来ないからタマキを養子縁組にしたんだ」

なんだよそれ。めちゃくちゃ真剣じゃねーか。
そう思ったのはカゲミツだけではなかったらしい。
しんと静まり返ったで一番最初に口を開いたのはアラタだった。

「タマキちゃん、リーダー、おめでとう」

僕もタマキちゃんのこと好きだったのになぁと言えるのは、大きくなったとはいえまだ幼さが残るアラタの特権だろう。
それをきっかけにナオユキやユウトが口々におめでとうと祝いの言葉を掛け始めた。
まだ事態がうまく飲み込めない。
ちらりとカナエを見てしまったのは多分無意識の行動だった。
同じようにこちらを見ていたカナエと一瞬目が合ったけれど、すぐにカナエは二人の方に向き直した。

「おめでとう」

いつもと変わらない柔らかな笑みの裏にはきっといろいろな思いがあるだろう。
俺にも言えるだろうか、いや言わなきゃいけないんだよな。
葛藤しながらタマキを見ると今まで見たことがないほど幸せそうに笑っていて。
カゲミツもいろいろな思いを全部飲み込んで無理矢理笑っておめでとうと告げた。

目の前に座るカナエを見て、まさかこいつとサシで飲む日が来るなんてなぁとぼんやり考える。
カナエも多分同じような心境だろう。
とりあえずビールと言って運ばれてきたジョッキは酔いたいのになかなか口に運べない。
会話なんて思い浮かぶ訳もなく二人の間には重い沈黙が流れている。
こうしていると余計に辛くなってくるだけだろ!

「なぁカナエ」
「なに?」
「とりあえず今日は潰れるまで飲まないか?」

そう言って手にしたジョッキをグッと呷ると、カナエもそうだねと同じようにジョッキを飲み干した。
最初は勢いに任せてただアルコールを体内に取り入れるだけだったが、酔ってくるとだんだん楽しくなってきた。
今まで酔っ払うまで飲んだことがなかったから知らなかったけど、笑い上戸らしい。
時折悲しそうな顔するカナエにもっと飲めと酒を飲ませているとだんだん自分が何を言ってるのかもわからなくなってきた。
ふわふわとしていて楽しくて気持ちがいい。
カゲミツの記憶はそこでぷつりと途切れた。

胸のあたり温かな重みを感じてカゲミツは目を覚ました。
見知らぬ天井に目を瞬かせて視線を下にずらすと誰かの腕が自分を抱き込むように巻かれていた。
思わず悲鳴を上げそうになったとき、頭に鈍い痛みが走り結局呻き声を上げてしまった。

「カゲミツ君起きたの…?」

痛みを堪え声がした方を向くといつもでは考えられないくらい近い距離にカナエの顔があってまた悲鳴を上げそうになってしまう。
だけどカナエは驚きもせずにおはようなんて言ってやがる。
しかもよく見るとカナエは上半身裸だ。
っていうかよく見ると自分も上半身どころか下着しかつけていなくて頭の痛みも忘れて背筋が寒くなる。

「おいカナエ、どういうことだ…」

カナエと飲みに行った、それだけしか記憶がないカゲミツが顔を青くしているとカナエがしゅんとしょげた顔をしてみせた。

「カゲミツ君、何も覚えてないの?」

思い出せるものなら今すぐ何があったかすべて思い出したい。
そう後悔しながらヒカルのことを思い出し、腰をさすってみるも痛みは特に感じない。
見える範囲に鬱血もないみたいだしととりあえず落ち着こうとしているとカナエが爆弾発言を放り込んだ。

「昨日はあんなに激しかったのに」
「はぁー!?…いってぇ…」

自分の大声に自分でダメージを受けながらカナエの言葉を反復する。
激しかった?なにが?
身に覚えがないのにヤッちまったのか?

「俺は昨日何をしたんだ?」

何も思い出せないカゲミツが恐る恐る尋ねるとカナエは面白そうにクスリと笑った。

「飲め飲めっていつもじゃ考えられないくらい強引にお酒を進めてきただけだよ」
「じゃあなんで…」

言葉を濁して晒された身体に目をやると帰宅して水を飲まそうとしてこぼしたからだと説明された。
そうかと納得しかけたカゲミツだったが大きな疑問をひとつ忘れていた。

「じゃあなんでお前に抱き締められて寝てたんだよ」
「それはちょっと人肌が恋しかったから…」

その一言で一気に現実に連れ戻される。
結構介抱したから許してと冗談めかして言うカナエに怒る気になれない。
沈んだ気持ちになっていると、カナエが明るい声を上げた。

「でもカゲミツ君が一緒に飲んでくれて良かった」

だからまた一緒に飲もうねと付け加えられて少しだけ救われた気分だ。
お水取ってくるとキッチンに向かったカナエを見送り、大きく息を吐き出した。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながらカナエは、昨夜のカゲミツのことを思い出していた。

「お前のことは嫌いだけどそこまで嫌いじゃねーぞ」

酔っていて支離滅裂だけどその言葉にカナエも少し救われていたのだ。
思ったよりこのキズの回復は早いかもしれない。
酔った勢いで思わず重ねてしまった唇の感触を思い出しながら、カナエはふとそんなことを思うのだった。

*
支離滅裂なのはわたしでした←

home top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -