▽08/04 19:00

「へぇ、あいつが好きなんだ?」

大学の学食で彼を見つけ、目で追っていると後ろから声を掛けられた。

「トキオ!」
「カゲミツが恋してるとは聞いてたけど、まさかあいつとはなぁ」

へぇとアゴに手を当てて頷いている。
違うと否定しても真っ赤になった顔では説得力のカケラもない。
ニヤニヤと笑うトキオに肩を叩かれカゲミツはテーブルに突っ伏した。

「お前にはバレたくなかったのに」
「ひどいなぁ、親友に向かって」

ガシガシと髪を掻き混ぜるようにカゲミツの頭を撫でる。
協力してやるよと言うと目を輝かせたカゲミツと目が合った。

*

「タマキ!」
「カゲミツ、どうしたんだ?」

トキオにバレてしばらくしたある日のことだった。
トキオとカゲミツが大学内を歩いていると、タマキを見つけた。
一瞬で鼓動が早くなるのが分かる。
タマキに微笑まれ、つい見とれてしまう。
笑顔を見ているだけで幸せだとすら思ってしまう。

「じゃあまた今度ゆっくり話そうな」
「あぁ」

しばらく話してタマキと別れた。
見えなくなるまで手を振るカゲミツに、トキオがプッと吹き出す。

「俺にもそんな風に接してよ」

冗談ぽく笑うトキオのお腹にグーパンチを一発。

「俺は真剣なんだよ!」

カゲミツはそう言って走って行ってしまった。
俺も真剣なんだけどなぁと呟いた一言はカゲミツに聞こえることなく消えた。

*

「まーたチャンス逃してるし」

伸ばした手をだらりと下げるカゲミツの背中をトキオが叩く。
下校中にタマキに会ったのだが、誘おうともじもじしてる間にカナエに連れて行かれてしまったのだ。
呆然と見送るカゲミツの頭をトキオがよしよしと撫でる。

「好きならもっと頑張れよ」
「分かってるよ」
「もうこれで何回目だよ」

呆れた声を出すトキオにカゲミツがまたしゅんとうなだれる。
カナエにさらっていかれたのは何も今回だけではない。
今まで何度もトキオはそのシーンを目にしていた。
しかし叱られた犬のようにしょんぼりするカゲミツをこれ以上責められない。

「また次頑張ろうな」

なんて背中を叩くしかトキオには出来なかった。

*

「トキオ!聞いてくれよ!」

大学内のベンチで座っていると嬉しそうなカゲミツが走ってやってきた。
犬ならしっぽをばたばたと動かしているだろうなとトキオは思う。

「何ニヤけてんの、気色悪い」
「タマキと遊びに行くことになったんだ!」

嫌味も聞こえないほど嬉しいのか、カゲミツは幸せそうに微笑えんでいる。

「あーそう、よかったねー」
「なんだよ、喜んでくれねぇの?」
「喜んでんじゃん」

本当は不機嫌だけど。
カゲミツはそんなトキオの様子を気にしていないようだ。

「何着て行こう、どこ行こう、何食べよう」

あー、あと二日しかねぇと頭を抱えるカゲミツは女の子のようだ。
親友として嬉しいはずのその報告も、今は素直に喜べない。

「まぁ頑張れよ」

精一杯笑ってカゲミツの肩を叩いた。

*

「トキオ・・・」

それから二日後の夜、トキオが寝ようとしていると鼻声のカゲミツから電話が掛かってきて飛び起きた。
どうしたんだと聞いてもカゲミツはぐずっと鼻を鳴らすだけだ。

「今行く」

それだけ告げて電話を切った。
上下ジャージだが気にしてられない。
戸締まりも確認せず急いでにバイクに跨がった。

「カゲミツ、どうした!」

勝手知ったるカゲミツの家のドアを開けて中に入ると、部屋の中は真っ暗だった。
手探りで電気をつけ部屋に入るとカゲミツは目を真っ赤にして涙をこぼしていた。

「カゲミツ・・・」
「他に好きな人がいるんだって」

泣いてるくせに強がって笑うカゲミツを見て、体が自然と動いていた。
華奢な体を力いっぱい抱き締めると、カゲミツの嗚咽が止まった。

「・・・トキオ?」
「男見る目がないからだよ」

それを聞いて暴れようとするカゲミツを腕の中に閉じ込める。
しばらくして静かになったカゲミツと目線を合わせる。

「目の前にこんないい男がいるってのに」

そう言って目尻の涙を拭ってやるとカゲミツが目を瞬かせた。

「男が好きな訳じゃないって知ってるけど、俺にしとけよ」

そう言って初めて重ねた唇はしょっぱい味だった。

by確かに恋だった様(恋をからかう彼のセリフ)



最後の男見る目ってのは、なんで俺に気付かないのって感じで思って頂ければ!

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