▽02/06 00:00
※基本的にはカゲミツ目線です
なのでキヨタカはカナエで、カナエはキヨタカのことをさします
わかりづらくてすみません
「そんな冗談誰が信じるんだ」
らしくもなくちょこんと座り、らしくもなく困ったように眉を下げるキヨタカにカゲミツが言い放つ。
そりゃそうだろう、ぶつかった拍子にキヨタカとカナエが入れ替わるなんて誰が信じられるんだ。
二人してカゲミツをからかっていると考える方が妥当だろう。
認めたくはないがキヨタカは何でも出来る。
だから普段一緒にいるカナエの真似だって簡単にやってしまうだろう。
「じゃあ俺になってる隊長も見てきたらいいじゃない」
「ああ、そうしよう」
このとき、そう言ってしまったのが間違いだったと気付くのは後になってからだった。
後から悔やむと書いて後悔とはまさに言い得て妙なのだ。
ミーティングルームに一人残っているらしいカナエに問いただしてこのくだらない冗談は終わりだとカゲミツは思っていた。
さっさと終わらせてやると意気込むカゲミツの後ろをキヨタカがカナエのような歩き方でついてくる。
そこまで徹底してるというのか。さすがに冗談が過ぎるだろ。
そう思うものの口に出したりなんかはしない。
言ったところで冗談じゃないとキヨタカはカナエの真似をして言い張るのだから。
もう既に何回か繰り返した押し問答をもう一度やる気はない。
だから黙ってずんずんとミーティングルームに向かった。
ミーティングルームのドアを開くとカナエがいかにもキヨタカみたいに座っていた。
資料の見方もキヨタカそのものだ。
だから徹底し過ぎだろともう何度目になるかわからない突っ込みを脳内でしながらカゲミツが口を開いた。
「キヨタカがおまえと入れ替わったって言うんだがどうなんだ、カナエ」
すぐに答えると思ったが、たっぷりと間を置いてからカナエは口を開いた。
ちらりとカゲミツの後ろにいるキヨタカを確認したよう見える。
「…隊長からカゲミツ君をからかおうって言われて断れなくて…」
「ちょっと隊長!」
前者はキヨタカのデスクに座るカナエ、後者は後ろにいるキヨタカの声だ。
キヨタカらしくない悲痛な声にこんな声も出せるのかと思いながら振り向く。
「こんなくだらねーことしてないでヒカルのとこにでも行ってやれよ」
「だから俺がカナエなんだってば」
「カナエが正直にネタバラシしたんだからこの話はこれで終わりだろ」
往生際が悪いぞと言うとキヨタカは押し黙った。
早くいつもみたいに面白味のない奴だと嫌味のひとつでも言えばいいのにキヨタカは何も言わない。
薄気味悪さを感じながら未だに座りっぱなしのカナエに声を掛ける。
なんだかこのままここにいるのは良くない予感がする。
「もう終わったんだから早く帰るぞ」
「それもそうだね」
立ち上がったカナエが近付いてきて、ふいに身体をぎゅっと抱きしめてきた。
「何するんだよ」
「本当はこんなことしたくなかったのに、ごめんね」
カナエは本当に反省しているようにそう言った。
キヨタカはと言えば驚き過ぎて声も出ないといった表情だ。
キヨタカらしくない。
「いつまでカナエのフリをしてるんだ」
「だからフリじゃないんだって!」
「隊長、もう終わりにしましょう」
カナエがそう言うとキヨタカがムッとした表情になった。
そして依然抱きしめているカナエを無理矢理引き剥がした。
「カゲミツ君に触らないでください!」
「おまえなぁ」
「隊長にそんなこと言われる筋合いはないですよ」
カゲミツ君と付き合ってるのは俺ですと堂々と言い放ったカナエに顔が熱くなる。
「おまえも何言ってんだよ…」
恥ずかしくなって俯くとスッと顎を持ち上げられた。
近付いてきた顔に反射的に目を瞑ると寸のところで止まる気配がした。
ちらりと目を薄く開くとニヤリと笑うカナエがそこにはいた。
その笑い方はまるで…
「おまえもまだまだだな」
そう囁かれた言葉でようやくキヨタカの言葉が本当なんだと気付いた。
ちょっと待てと言う声はカナエの見た目をしたキヨタカの口の中に吸い込まれた。
背中にぞくりと悪寒が走る。
見た目はカナエなのにキスの仕方が全然違う。
このキスの仕方は思い出したくもないファーストキスにとてもよく似ていた。
押し返そうとしていると、無理矢理キヨタカが割って入ってきた。
実際はキヨタカの見た目をしたカナエなのだが。
「何してるんですか」
氷点下かというほど冷たい声がする。
カナエ、の見た目をしたキヨタカはやれやれといったように肩を竦めた。
「こんなこと滅多にないんだから少しくらいからかってもいいだろ」
「よくありません」
冷静な言い方だからこそカナエがキレているのだと分かる。
ただ相手はキヨタカだ。
それがわかっていても怯むような奴ではない。
「身体はおまえなんだからいいだろ?」
「でも俺じゃありません」
だんだんと殺気立ってきたカナエにようやくキヨタカは白旗を上げた。
随分と愛されているなと笑って何事もなかったかのようにミーティングルームを後にした。
「全然俺の話を聞いてくれなかったね」
呆然とその背中を見送っていると、カナエが恨めしい声で呟いた。
「だって、そんなこと現実にあると思えねぇだろ…」
「いくら隊長でもそこまで完璧に真似できないよ」
「アイツならやりかねんと思ったんだよ」
悪かったと言ってもカナエの目は冷たいままだ。
「…元に戻った後、覚悟しておいてね」
そう宣告された言葉は、数日後元に戻ったにカナエによってしっかりと決行されたのであった。
*
カゲミツがありとあらゆる意味でバッドエンドコースでした!
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