▽12/09 23:11

「そんな冗談誰が信じるんだ」

らしくもなくちょこんと座り、らしくもなく困ったように眉を下げるキヨタカにカゲミツが言い放つ。
そりゃそうだろう、ぶつかった拍子にキヨタカとカナエが入れ替わるなんて誰が信じられるんだ。
二人してカゲミツをからかっていると考える方が妥当だろう。
認めたくはないがキヨタカは何でも出来る。
だから普段一緒にいるカナエの真似だって簡単にやってしまうだろう。

「じゃあ俺になってる隊長も見てきたらいいじゃない」
「カナエだってその辺は器用にやるだろ」

多少棘のある言い方だとカナエが感じたのはきっと思い違いではないだろう。
ごめんと告げると、気持ち悪いと返される。

「タマキは純粋だから騙せても俺はそうはいかないぜ」

相変わらずタマキ君に甘いと心の隅でちらりと思う。
しかし入れ替わってしまったことはカゲミツが信じなくても事実だ。
どうしようかと考えて、はたと思い浮かんだ。

「俺しか知らないカゲミツ君のこと言ったら信じてくれる?」
「どんなことだよ」
「左の内腿にホクロがあるとか」

言ってみたがカゲミツの反応はイマイチだ。
まさか隊長も知ってるとか?というカナエの思考はカゲミツの言葉によって遮られた。

「他には?」
「寝てる間に擦り寄ってくることとか」

これはカナエしか知らないクセなはずだ。
もし他の誰かが知っていたら少しショックかもしれない。
そう思ってカゲミツを見遣るとアイツ、バラしやがってと憤慨していた。
そんな可愛いクセをわざわざ他の誰かにバラす訳なんてないのに。
まだ信じていないようなので、本当に二人しか知らない話をすることにした。
カゲミツが怒ってしまう可能性はあるが仕方ない。

「あとカゲミツ君、呼び捨てにすると感じるよね?」
「おまえ…何言ってるんだ…!」

そんなことまでバラしやがって、アイツ絶対許せねぇとカゲミツは怒りが頂点に達しているようだ。
しかしここまで言っても信じている様子はない。
言葉で伝えても伝わらないならば、身体に伝えるしかないだろう。
音も立てずに立ち上がり、ぷんすかと怒りを撒き散らしているカゲミツの身体を反転させた。

「え…っておい!何してるだ!」
「さすがにセックスのやり方までは真似出来ないでしょ?」
「おまえ、さすがに冗談が過ぎるだろ!」
「カゲミツ君が信じてくれないのが悪いんだよ」

中身は自分だとはいえ、外見はキヨタカなのだ。
この身体で事に及ぶのは多少躊躇いを感じる。
だけど青ざめたカゲミツはカナエの加虐心を煽った。
簡単にカゲミツの両腕を拘束すると耳元で低く囁いた。

「カゲミツ」

その声にカゲミツはぶるりと身体を震わせる。
これはいつもカナエがするときと同じ反応だ。

「もしかして、隊長の声でも感じる?」

心がスッと冷えて意図せず感情のない声が出た。
真顔になった表情を見て、ようやくカゲミツは気付いたようだ。

「おまえ、本当にカナエなのか?」
「さっきから言ってるじゃない」

信じてくれなかったのはカゲミツだ。
それよりもカナエには気掛かりなことがあった。

「カゲミツ君、俺の質問に答えてよ」

耳に息を吹きかけながら問い掛ける。
嫌だとかぶりを振るが、こればっかりははっきりさせておきたい。
でない心穏やかじゃない。

「おまえだから…」
「でもさっきまで俺のこと隊長だと思ってたんでしょ?」

誤魔化せて逃げさせたりなんしない。
ねえ?と言いながら顔を近付けるとそれまで大人しくなっていたカゲミツが突然抵抗を始めた。
尋常じゃない抵抗に顔を離し、拘束していた両腕を解放した。
はぁはぁと肩で息をするカゲミツの背中をさする。

「信じなくて悪かった、でもその顔でキ、キスとかはやめてくれ…」

心底嫌そうに言ったカゲミツに妙な胸騒ぎがする。
もしかしてキヨタカと過去に何かあったのだろうか。
不安気な表情が顔に出ていたのだろうか、カゲミツが渋い顔で昔の話だと言った。

「聞かせてくれる?」
「その顔で言われてもな」
「カゲミツ君」

懇願するように名前を呼ぶと、深い溜め息を吐き出した後ぽつりとこぼした。

「キスされた、しかもねっとりしたの」
「…」
「俺のファーストキスは最悪な思い出だ」
「…え」

カゲミツのファーストキスを奪ったのがキヨタカだなんて。
きっと隊長のことだからイタズラに奪ったに違いない。
そんな男の顔でカナエはカゲミツにキスしようとしたのだ。

「ごめん…」
「いや、俺も信じなくて悪かった」

その事実を知ってしまった以上、一分一秒でも元の身体に戻りたくなった。
カゲミツだってこんな顔と一緒に暮らすのはいい気分ではないだろう。

「早く元に戻れるように頑張るね」
「そうしてくれ…」

心底疲れ果てた表情のカゲミツを抱きしめたくなったけれど、グッと堪える。
とりあえず明日、キヨタカに思いっきりぶつかってみよう。
カゲミツのファーストキスを奪った恨みも込めて、ね。

*

カゲミツのファーストキスの話は入れるつもりなんてなかったのに、楽しくなって勝手に指が…←
最初の方にあるキヨタカも見に行けばってところで、実際カゲミツが見に行ったバージョンも案としてはありました

131211 追記 書いちゃいました → プランB
カゲミツ君の受難コースです

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