▽03/26 00:50

「ねぇカゲミツ君、チューしてもいい?」

ワゴンに泊まりに来ていたアラタが寝る前にふとそんなことを言い出した。
だから頭をわしゃわしゃと撫でながら確かに俺は言った。
そういうのは大きくなってから好きな人に言うもんだぞ、と。
なぜ今更そんな過去の出来事を思い返しているかというと、今まさに大きくなったアラタがチューしてもいい?と聞いてきたからだ。
ただ昔みたいに可愛い感じではなく、両手を俺の体の横につき膝を足の間に入れられて完全に逃げ道を塞がれながらだけど。

「だからそういうのは好きな人に…!」
「そう言われたから大きくなるまで待ってたんだよ?」

アラタはそう言ってにっこりと笑った。
まだ多少幼さは残っているものの身長はあの頃から想像も出来ないほど大きくなり、声も昔と比べると男らしくなっている。
焦って後ずさってもただ背もたれにぶつかるだけだ。

「おまえが好きなのはタマキじゃねーのか」
「タマキちゃんも好きだけど、そういう意味で好きなのはずっとカゲミツ君だよ」

昔から言ってたじゃないと言われても、あれは子どもの戯言だと思っていたし今でも信じられない。
冗談はよせと言ってもまだ信じてくれないの?とアラタはグッと顔を近付けて来た。
思わず目を瞑ると可愛いなんて言って慣れた手つきで頬を撫でてきた。

「カゲミツ君チューしたことある?」

そう言われて思い出したのは過去の思い出したくもない出来事だ。
苦々しい思い出に唇を噛むとアラタが目を輝かせた。

「…ないんだ?」

なら僕がカゲミツ君の初めてを奪っちゃうねと嬉々として言ったアラタに小さく首を横に振った。

「…あるぞ、好きな人とじゃねーけどな」
「へぇ、そうなんだ」

声のトーンが落ちたアラタにこのままどいてくれるかと期待したけれど、一瞬でまた表情を戻した。

「なら僕のチューでその思い出を上書きしてあげる」
「俺はおまえのこと好きじゃねーし!」
「これから好きになるから大丈夫だよ」

言ってしまったと思ったけれど、アラタは全く気にしていないようだった。
その自信は一体どこからわいてくるのか、そう言い切ったアラタは子どもでも大人でもない顔で笑った。
そして表情を一転させ、射抜かれそうな真剣さでこう言った。

「それに僕、これ以上待てないから」

ゆっくり近付いてきた唇を避けることなく受け止める。
一瞬だけ触れてそれはすぐに離れていった。
期待していた訳じゃないけれど肩透かしを食らった気分だ。

「今日はこれくらいにしといてあげる」

だってカゲミツ君、取って食われるんじゃないかってくらい怯えてるんだもん。
クスクスと口に手を当てて笑うアラタに肩を撫で下ろした。

「いつか本当の意味のファーストキスをもらうからね」

それはお互い好き合った上で、ということだろうか。
さっきまで感じていた"有り得ない"というか気持ちはずいぶん萎んでしまっている。
アラタが言う本当の意味のファーストキスをする日も意外と遠くないかもしれない。
横になって目を閉じるとやはりまだ幼さの抜けないアラタを見ながら、カゲミツはそう思うのだった。

*

あらかげ楽しい!
子供時代に約束したことを大人アラタに迫られるカゲミツを書きたくなりました∧( 'Θ' )∧

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