▽10/28 18:27
日付が変わって時計が2のところに差し掛かろうとしていた時、静かな部屋にピンポーンとチャイムの音が響き渡った。
同居人なら鍵を持っているはずだしと急いで玄関のドアを開けると、抱えられたカゲミツと不機嫌さを隠そうともしないヒカルがそこには立っていた。
カゲミツはかなり酔っ払っているのか足元が覚束ない。
乱暴な動作で抱えたカゲミツをこちらに寄越すとヒカルはハァと大きな溜め息をついた。
「これからカゲミツが飲む時はお前もついて来い」
いいな!と言い残してヒカルはスタスタと踵を返し去ってしまった。
状況がうまく飲み込めないが、カゲミツが悪酔いしてしまったのだろう。
まともに歩くことの出来ないカゲミツを丁寧に抱え直し、カナエは玄関のドアを閉めた。
とりあえずソファーに座らせてミネラルウォーターを手渡した。
しかし酔っ払ったカゲミツはまだバンプアップにいると思っているらしい。
「なぁヒカル、なんで俺じゃダメだったんだろうな…」
覚束ない口調から漏れたその一言でカゲミツの悪酔いの理由がわかった。
アルコールのせいで感情が高ぶっているのか、ぽろりと琥珀色の瞳から涙がこぼれ落ちた。
その瞬間、カナエの中で何かがプツリと切れたの感じた。
ドンとソファーの背もたれにカゲミツの肩を押し付けると、眠たげに細められていた目が僅かに開いた。
「カナエ…?」
「もうその話はしないって約束したよね?」
それはカナエだって同じ思いだった。
まるで鳶に油揚げをさらわれるごとく、オミはタマキと付き合い始めたのだ。
一人では大き過ぎる部屋を持て余していたカナエと一人で過ごしたくなかったカゲミツの利害が一致し、傷を舐め合うように一緒に暮らし始めた。
その最初に約束をしたのだ、もうタマキの話はやめようと。
お互い時折暗い顔を見せることはあったが、これまでは決して話題にしてこなかった。
それに一緒に暮らしているうちに、カナエは多少なりともカゲミツに好意を持ち始めていたのだ。
両手でしっかりとカゲミツの顔を固定し無言で顔を近付けた。
頬に残った涙の後をべろりと舐めとる。
「おい、何やってんだよ」
酔いが少し醒めたのか、カゲミツが慌てて体を引き離そうとするが力でカナエに勝てるはずもない。
結局少し体を少し捩っただけでソファーに押し戻された。
「そろそろ忘れなきゃダメなんだよ、お互いに」
カゲミツの表情が曇ったのが見えたが、ここで立ち止まったって何も変わりはしない。
ならば思い切って進んでみて、何かを変えてしまえばいい。
意を決して重ねた唇は酔いそうなほどきついアルコールの味がした。
*
オミタマ前提とかカナエとカゲミツが同居とかいろいろ突っ込みどころはあるかと思いますがスルーも大切だと思います
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