▽10/07 23:49

「ただいま」

誰に言うでもなく控え目に呟いてオミは玄関のドアを開いた。
声を控え目にしたのはおそらく眠りに就いている同居人を起こさないため。
それでも言ってしまったのはただいまと呼べる今が幸せだと思うからだ。
帰る家なんてなかったあの頃、こんな風にただいまと帰る場所が出来るなんて思ってもみなかった。
それにおかえりと返してくれる愛しい人までいる。
幸せを噛み締めながら家の中に入ると消えていると思っていたリビングから光が漏れているのが見えた。
まさかカゲミツが起きて待っていてくれたのだろうか?
今夜は遅くなりそうだから先に寝ておいてと伝えたはずなのに。
少しドギマギとする心臓を抑えつつリビングのドアを開くと。
そこにはテーブルに上半身を預けてスヤスヤと寝息を立てるカゲミツの姿があった。
起きていようとしてくれたのか、テーブルの上には冷めたブラックコーヒーが置いてある。
普段はあまり感情を表に出して伝えようとしないカゲミツだけど、こういうところで愛されているのだと感じる。
思わず笑みがこぼれてしまうのも仕方のないことだろう。
首を締め付けていたネクタイを緩め、カゲミツの寝顔が見える方へと移動する。
寝顔なんて毎日のように見ているが、それでも見飽きることなんてない。
クスッと笑って髪を撫でると、カゲミツがんっと寝声を上げた。
眩しそうに目を細めてからゆっくりとまぶたが開いた。

「オミ…?」
「先に寝てていいって言ったのに」

眠たげに焦点を彷徨わせていたが、ようやくぱちりと目が合った。
ハッとした表情には気付かないフリをして笑い掛ける。

「ただいまカゲミツ」
「おかえり」

先に寝てていい、なんて言ったけどやっぱりおかえりと言われるのは嬉しい。
ただいまのキスだとカゲミツの唇を掠めると、すっかり目が覚めて飛んできたグーパンチも含めて、ね。

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