▽05/30 01:04
「あ〜終わった〜!!」
夕食後、少しの休憩を入れることもなくパソコンに向かっていたカゲミツが大きな声を上げた。
ぐるぐると回して凝った肩をほぐしている。
特に急ぎの仕事もなく、夕食を片付けた後はテレビを眺めていただけのタマキはその声を聞いて立ち上がった。
カゲミツが頑張ってくれるから自分達の仕事がやりやすくなる。
となれば労わりたくなるのも当然のことだろう。
それに、カゲミツは恋人、なんだから。余計に。
冷蔵庫から最近よくテレビで見掛けるビールを二本手にして、カゲミツに近付いた。
「お疲れ」
「おーサンキュウ」
まずは声を掛けるとにこっとした笑顔がこちらを向いた。
手にしたビールを差し出しながら、テレビと同じ台詞を言うと、カゲミツが固まった。
「ねぇ、リッチしよ」
「えっ…」
「え?」
ボッと一瞬で真っ赤になったカゲミツが理解出来ずにタマキがことんと首を傾げる。
するとカゲミツは肩をぴくんと揺らして口元に手を添えた。
「…大胆だな」
いや、でも明日も仕事があるしとブツブツと呟きながら一人で逡巡している。
「カゲミツ、」
ビールが温くなるぞと続けようとした言葉は、腕を掴んだカゲミツによって遮られた。
「それより、ベッドに行かねぇか…?」
白い肌を赤く染めて恥じらうように言ったカゲミツに今度はタマキが固まった。
「は?」
「なるべく優しくするから…」
「いや、明日も仕事だから無理だろ」
きっぱりとタマキが断るとカゲミツが目を見開いた。
「だって、タマキがエッチしよって」
「そんなこと言ってない!!!カゲミツ、このCM知らないのか?!」
ビールに描かれたラベルを見せるとカゲミツがあっと声を漏らした。
さっきまでのはにかんだ表情から一転、
サーッと血の気が引いていく。
「あ、ま、そ、そうだよな!明日も仕事だもんな!」
焦って取り繕うとしているが、内心がっかりしているのが手に取るようにわかる。
まるでそれは犬が耳を伏せるようだ。
そんなところが可愛いと思ってしまうのは、きっと惚れた弱みだろう。
「今度の休みのときに、な?」
誰も聞いていないのにわざと耳打ちしてやると大袈裟に肩が揺れた。
顔は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「タマキには敵わねぇよ」
そう笑ったのを見て、騒動の発端となった缶ビールのプルタブを開いたのだった。
*
ネットで調べてみたけど、やっぱ大多数の人が聞き間違えてたので安心しました
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