▽05/24 00:52

「俺ね、この花が好きなんだ」

ある春の帰り道、突然オミがそんなことを言った。
花壇に咲き乱れるのは色とりどりのチューリップ。
オミならば薔薇を持っていても似合いそうなのに、意外だ。
そんな気持ちを含めて顔を見上げると、オミが足を止めてその場に屈んだ。
そっと触れたのは黄色い花びらをチューリップだ。
カゲミツも同じように足を止めて、上からそれを見下ろす。

「カゲミツ、チューリップの花言葉知ってる?」
「愛の告白じゃねぇの?」

何気なくそう答えたカゲミツに、一瞬どきりとしてからオミは苦笑を浮かべた。

「それは赤いチューリップだ」
「じゃあそれは何なんだよ」
「実らぬ恋、…色が違うだけで全然違う意味になるから気をつけなよ」

珍しく切なげに歪められた表情に目を奪われた。
まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れて、オミは立ち上がった。

「さぁ、行こうか」
「…なんで黄色いチューリップが好きなんだよ」

そして、なぜそれを自分に伝えたのか。
声には出さず見つめるとオミがフッと息を吐き出した。

「なんだか健気だろ?それに……自分と重ねる部分もあるのかもしれないね」

言い終えて、遠い空に目を向ける。
クラスの人気者で公爵家の跡取息子だ。
普通以上に好かれる要素のあるオミが実らない恋なんて、相手は一体どんな人なんだろうか。
しかしそれを詮索する気にはなれなかった。

「まぁ頑張れよ」

無責任かもしれないが、今のカゲミツにはこれくらいしか浮かばない。
気を悪くしたかた思ってて顔を盗み見るときょとんとしてから小さく笑った。

「カゲミツらしくないね、でもありがとう」


*

なぜ5年以上も前の記憶を引っ張り出してきたかというと、カゲミツの目の前にはかつて彼が好きだと言った黄色いチューリップが咲いているからだ。
オミの行方がわからなくなってもう数年が経つ。
しかし毎年春になれば咲くそれを見ては、思い出すのだ。
彼の家族を壊した自分が元気でいて欲しいや、幸せになって欲しいと願うのはおこがましいだろうか。
しかしあの日の切なげな表情や、最後に見た顔を思い出すとそう願わずにはいられない。
ふぅと小さく溜め息を吐き出して、カゲミツはバンプアップのドアを開いた。

*

あと植物図鑑で別れる男に、花の名をひとつは教えておきなさいを自分流に考えてみました。
元は川端康成の言葉のようですが。

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