▽05/05 20:04

それはまるで夏の終わりを告げるかのようにぽとりと静かに地面に落ちた。
辺りを覆うのは波打つ音と5秒に一度照らすピンスポットライトだけだ。
生ぬるい夜風に吹かれながら二人して黙って燃え尽きた線香花火を見ていると、一瞬ライトに照らされたタマキが何か企んでいるように笑った。
穴場の海岸、しかもこんな夜に来る奴なんてほとんどいない。
次にライトがタマキを照らした瞬間、砂を蹴って海岸へと走り出した。

「危ねぇって!」
「大丈夫だって!カゲミツも来いよ!」

常時光を点すことの出来る懐中電灯は電源を切ってカゲミツのポケットの中だ。
心配をしつつも、楽しげなタマキの声を追った。
バシャバシャと派手な音を立ててタマキが海の中に入っていく。

「タオルなんか持って来てねぇぞ!」
「海に来て入らないなんてもったいないだろ?」

ちゃんとトランクに入れてあると付け加えられてタマキが確信犯であることがわかった。
仕方ねぇな、なんて呟きはただのポーズだ。
楽しそうに笑うタマキを見れば、どんなことだって許せてしまう。
一時期の塞ぎ込んでしまったタマキを見ているから余計にそう思う。

「カゲミツも来いよ」
「俺は遠慮しとくよ」
「だからもったいないだろ?ほら!」

声と同時に冷たい水しぶきがかけられた。
イタズラが成功したみたいにタマキは笑っている。
海に入ったことはないけど、されっぱなしじゃつまらない。
意を決して裸足にり、夜の海に一歩足を踏み入れた。

それはまるで古い映画のワンシーンみたいに散々水しぶきを掛け合ってびしょびしょになり二人で笑い合った。
ヒカルが見ていたらバカップル過ぎて目も当てられないと言うかもしれない。
けれど自分達はこれが幸せなのだ。
お互いの笑いがひき、辺りはまた波打つ音しか聞こえなくなった。
無言のままだけど二人の気持ちは同じだ。
スッと手を伸ばしたタマキにカゲミツも同じようにしてその手を取る。
ゆっくりと二人の距離が縮む。
そして唇が触れようとした、その瞬間。

「カ、ゲミツ」

今言い淀んだのはきっとアイツが浮かんだからだろう。
仕方ない、仕方ないのだ。
今はカゲミツの隣にいるがまだ完全にアイツを忘れた訳ではないし無理に忘れなくてもいいと伝えている。
だけどこんなタイミングで思い出さなくてもいいだろう。
一瞬表情が曇ってしまったけれど、闇夜に紛れてタマキにはバレなかったらしい。
すぐさま重なった柔らかな感触にもやもやとした気持ちは一瞬で霧散した。

タマキの言った通りトランクに入れられていたタオルで身体を拭いた。
深夜の海に別れを告げ、シンジュクへと向けて走り出した。
濡れたTシャツは車の窓で風を受けてぱたぱたと揺れている。
カーステレオの音は控え目にして、楽しかったなと感想を語り合う。
しばらくそうしていたがはしゃぎ過ぎて疲れたのだろうか。
ふいに沈黙が二人を包んだ。
だからといって気まずさなんてものはない。
カーステレオから流れてくる夜のドライブにぴったりの音楽に耳を傾けていると、ふいにタマキが名前を呼んだ。
赤信号で止まっているのをいいことに、どうしたと身体ごとタマキの方に向ける。

「カゲミツがこうして一緒にいてくれて本当に嬉しい」

ありがとう。
そう言ったタマキをカゲミツはシートベルトを外して抱き締めた。
信号だけど周りを走る車なんていない。
タマキも自分のシートベルトを外し両腕を背中に回した。
小さく好きだと呟かれた後、どちらからともなく唇を重ねた。

タマキはまだカナエを心を残している。
だけど一緒にいることが嬉しいと言ってくれている。
ならばどんなことがあっても受け止めてやろうじゃないか。
例えば、キスの直前に別の誰かを思い浮かべていたとしても。

どれほどの時間が経ったかはわからないけれど、東の空が段々と白み始めているのが見えた。

「そろそろ帰ろうか、俺達の家に」
「うん、俺達の家に」

言ってはにかんだタマキに笑みを向けて、車は再びシンジュクへと向けて走り始めた。

*

アキヒコさんのカブトムシが非常に好きで素晴らしいと思って、それに近付けるようにとこっそり歌詞を元にしたお話を書いているのですが全く上手く出来ませんね!
シチュエーションすらそのままにしてしまうからオリジナリティがないんですかね
ともかくサマーヌード好きです。ぜひエゾに真心を!

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