▽04/11 00:25

「おはよう」

カゲミツがまだ重い瞼をこすりながらリビングに出ると、昨夜も遅かったというのにオミが爽やかな笑顔で出迎えた。

「俺はこれから行くけど、カゲミツはどうする?」
「いや、俺はいいわ」
「そう、じゃあ行ってくるよ」

毎朝栄養ドリンクだけなんて身体に良くないよと付け足してオミは玄関に向かった。
かく言うおまえも外食生活だろという呟きは本人に聞こえることなく宙に消えた。
これでもカゲミツは心配しているのだ。
二人のこの不健康極まりない食生活を。

*

そんなやりとりのあった数日後。
前々から考えていたことを決行するためにカゲミツはいつもより少し早い時間に目を覚ました。
オミに知られるわけにはいかないのでゆっくりと、慎重にベッドから抜け出る。
幸いオミはぐっすりと眠っているようで起きる気配はない。
久々にひんやりとした部屋の空気を感じながらカゲミツはキッチンへと向かった。

「これでいいかな」

マスターに言われた食材を取り出して眺める。
これならおまえにも出来るだろうと言われたメニューだ。
簡単だけどしっかりと栄養のことも考えられているらしい。
マスターが丁寧に説明してくれたメモを見ながらカゲミツは早速調理に取り掛かった。

*

「こんなところで何やってんの?」

しばらくすると背中の方から起き抜けで少し掠れ気味のオミに声を掛けられた。
そういえばいつもオミが先に起きているからこんなところを見るのは初めてかとしれない。
なんだか少し気恥ずかしい気持ちになりながらくるりと振り返った。

「朝飯、作ってた」

言ってからやっぱり恥ずかしさが襲ってきて目を伏せる。

「どうしたの、いきなり」
「いいから、早く顔洗って来いよ」

まだ何か言いたそうだったがオミは洗面所に向かった。
その間にテーブルに二人分の食事を運ぶ。
向かい合って座るのは恥ずかしい。
でも一応頑張って作ったのだから感想を聞きたい。
形は不恰好だけど味は大丈夫なはずだ、多分。
そわそわと落ち着かないでいるとさっきよりもさっぱりとした顔のオミがカゲミツの向かいに座った。
机の上に並べられた料理を一瞥して言った。

「これカゲミツが作ったの?」
「切って挟むくらい俺にも出来る」
「随分不恰好だけどね」

オミはそう言うとクスッと笑っていただきますと手を合わせた。
カゲミツもそれにならい同じようにいただきますと手を合わせる。
それからサンドウィッチを手に取ったオミをまじまじと眺める。

「そんなに見つめられるとたべづらいんだけど?」
「み、見つめてなんかねぇよ!」

笑われたのが癪で目の前のサンドウィッチにがぶりと噛り付いた。
一口食べ終えたら感想をくれるかと思ったけれどオミは黙々と食べ続けた。
自分から聞くことも出来ずにカゲミツも黙って食べ続けることしか出来ない。

サンドウィッチもサラダも完食し、コーヒーに口をつけた後、ようやくオミは口を開いた。

「悪くないね」

可もなく不可もなくな感想にこっそり肩を落とす。
一応恋人という関係なんだから美味しかったと言ってくれたらいいのにと女々しい気持ちが浮かんでくる。

「でもどうしていきなり自炊しようと思ったの?」
「おまえが言ったんだろ、栄養ドリンクだけなんて身体によくないって」
「確かに言ったね、でもそれだけじゃないんだろ?」

見透かすような瞳に見つめられる。
本当の理由なんて言うつもりはなかったのにカゲミツは観念して口を開いた。

「おまえも外食ばっかじゃねぇか」
「で、心配になったんだ?」
「うるせぇ」

そう言ってみたって赤い顔のせいでバレバレだろう。
俯いているとオミは二人分の食器を持って立ち上がった。

「美味しかったよ」
「は?おまえさっき、」
「悪くない、としか言ってないけど?」

軽やかに笑って食器をキッチンに運ぶ。

「後片付けくらいは俺がやるよ」

だからまた作ってねと付け加えたオミはズルイ。
きっとマスターやトキオのところに作り方を聞きに行くのだろう。
真剣にトキオに料理を教えてもらおうかなという考えが頭をよぎった。

*

「ところでカゲミツ」
「なんだよ」

( 隠 し 味 は も ち ろ ん )

「愛ってやつだよね?」
「うるせぇ!」

*

三ヶ月振りくらいにお話書きました
変なところがあってもスルーして頂けると嬉しいです

最初は美味しくないとか言いながら全部食べるツンデレーションなオミさんを書くはずやったのになぜかデレた
個人的には本当に食べれるの?くらい言いそうなイメージです

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