▽02/01 00:00

そもそも部隊にいた頃はトキオと二人っきりで話すなんてことはなかった。
トキオもタマキを狙う一人だと勝手に敵対心を抱いていたのもあるが、いけ好かない野郎だと思っていたからだ。
しかしひょんなことから始まった二人の共同生活のおかげでその考えはまるっと覆された。
最初どうなるかと思っていたこの生活は、当初の予想を裏切り調に進んだ。

「カゲミツー、そろそろ起きる時間だぞー」

朝になればトキオが名前を呼ぶ声で目が覚める。
このおかげで遅刻する回数がぐんと減った。
遅刻の度にキヨタカにうるさく言われていたことを考えると、これはかなりありがたい。
しかも朝食のメニューまで考えてくれるのだ。

「どうせだったらおまえが作ってくれりゃあいいのに」
「触れたら作ってあげるんだけどねー」

簡単なレシピを口で伝えながらトキオが包丁を握ろうとしてみせた。
当然ながらそれには触れることが出来ず苦笑いを浮かべる。

「まぁ起こしてくれるだけでありがたいよ」

トキオと暮らし始めてよかったことはこれだけではない。
こうしてトキオが教えてくれるからちゃんと食事を取るようになったのだ。
おかげで以前よりも健康になった気がする。
料理の腕も少しずつではあるが上がっているようだし。
今までは限界まで溜めていた洗濯をこまめにやるようにもなった。
乱雑に物を置いていたデスクの上も今は綺麗に整頓している。
全部自分でやったものだがトキオの助言がなければ出来ていないだろう。
ゆっくりと支度を整えて時計を見るとそろそろ出発の時間だ。
以前は慌ただしかったこの時間も今は余裕がある。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

そう言うとトキオは毎日笑顔で見送ってくれた。

*

仕事を終えてガチャリと玄関のドアを開けるとおかえりという声が聞こえる。
ただいまーと声を掛けて靴を脱ぐとひょっこりとトキオが顔を覗かせた。

「今日はこの前の残りで焼き魚にしようと思うんだけど」

二人並んで今日の出来事を話しながら夕食を作る。
へぇと楽しそうにそれを聞くトキオはきっと聞き上手だ。

「おまえがこんなに面白い奴だと思ってなかったよ」
「そりゃどーも」
「どうせなら生きてる間に知りたかったぜ」

不謹慎かもしれないけれどトキオも笑っているから大丈夫だろう。
いつの間にか二人は軽い冗談を言い合える友達のような関係になっていたのだ。

二人分の食事をテーブルの上に置いてカゲミツは席についた。
向かい側にはトキオも座っている。
なぜ食べれないトキオの分もあるかというと、一人で食べるのが寂しいからだ。
じっと見られているというのも居心地が悪いし。
一人分の食事を二つにわけてトキオには食べてる真似をしてもらう。
そして食べ終わったらカゲミツの食器と入れ替えて二人で食事しているようにと演出しているのだ。
食べれないくせにトキオはいつも美味しそうに食べる振りをしてくれる。
例えば焼き魚なら焼き具合がちょうどいいなど言いながら。
食べていないとわかっていても、そう言われると嬉しいものだ。
カゲミツが最近自炊するようになったのは、このトキオの発言のためでもある。

食事を終えた後は二人でテレビを見たりまったりとした時間を過ごす。
家に仕事を持ち帰るほど大変じゃなくなったのもある。
けれどいつの間にか二人で過ごすまったりとした時間が大切なものになっていたのだ。

風呂に入りベッドに潜るとトキオも同じようにベッドの隣に寝そべった。
一人用のベッドだから距離は近いが寝返りをうったところでぶつかりはしない。
実体がないのだから。

「明日何時?」
「いつもと同じで」
「りょーかい」

目を開けば青い瞳がすぐ近くにあるのに手を伸ばしても触れることは出来ない。

「おやすみ」
「おやすみ」

ゆっくりと閉じた瞼を確認してそろりと手を伸ばした。
触れることはできないけれどトキオの手のあたりに自分の手を重ねてカゲミツも瞼を閉じた。

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