▽11/04 20:28

「朝ごはんはクロワッサンでいいよな?」

ニッコリと笑って見せた紙袋にカゲミツの顔色が少し曇ったことにきっとタマキは気付いていない。

ナイツオブラウンドの崩壊後、紆余曲折を経てカゲミツはタマキと晴れて恋人という関係になった。
バンプアップの上に一室を借り、二人で同じ部屋に住んで同じベッドで眠るようになった。
毎日のようにハグやキスをするし、それ以上のこともしている。
だけどタマキの頭の中にはまだアイツがしっかりといて、キスの後にふと寂しそうに目を伏せたり、今みたいに無意識のうちにアイツの好物だったものを買ってきたりする。
そして時折寝言で小さくアイツの名前を呼ぶのだ。
お互い離れたくて離れた訳じゃない。
だから未練が残るのも理解出来るし、付き合ったからといってそれを捨ててくれと思ったりもしない。
だけどタマキのふとした行動を見ていると、もしアイツが帰ってきたら俺なんか捨ててアイツのところに行っちまうんじゃないかと思ってしまうんだ。

朝食の用意が出来て席に座るとタマキがふとハチミツを手渡してきた。

「カゲミツ、これにハチミツつけて食べるの好きだったよな?」

悪気なんてカケラもない笑顔でタマキは笑う。
でも俺はハチミツがあまり好きじゃない。
それはカナエだろと喉の奥まで出掛けた言葉をブラックコーヒーと一緒に飲み込んだ。
タマキは俺にカナエを重ねている。
前に行った公園にもう一度行きたいと言うけれど、俺はそんな公園に行ったことはない。
あのアイス美味しかったよなと言うアイスはどこに売っているのかもわからない。
その度にカゲミツは働き過ぎだからすぐ忘れるんだとタマキは笑う。

「今度さ、前見たあの映画の続編があるらしいんだ」
「どんな映画?」
「ほら、あの俳優が出てるやつだって!」

そう言われてもピンとこない。
これも多分、カナエと二人で見に行ったものなんだろう。
そんなことを言われる度に考えてしまうのだ。
今ここで一緒に暮らして向かい合って食事をするのは俺じゃなくてもいいんじゃないかって。

今まで一人で生きていけると思っていた。
だけどそれは違うと教えてくれたのがタマキだった。
タマキといると幸せで、これは一人では感じられないことなんだと教えてもらった。
だけどこの気持ちを一人で抱えていても無意味だ。
タマキが少しでもこちらを向いてくれればこの気持ちも意味があるものになるのに。

沈んだ気持ちで用意されていたクロワッサンを食べ切り食器を片付ける。
テーブルに置いてあったパソコンを持って立ち上がるとタマキがちょんちょんとツナギの袖を引っ張った。

「今日も一日頑張れるように」

言い終わると同時に少し背伸びをして唇を重ねて、タマキは照れたようにはにかむ。
じゃあ行こうと腕を引っ張られ二人は玄関にきた。

「好きだよ」

先に靴を履き終えたタマキがドアノブに手をかけたと思ったら振り返ってそう言った。
きっとタマキは誰かに近くにいて欲しいんだと思う。
だからタマキのこの台詞がいつか100%自分に向けられる日をくることを信じて俺も言葉を返した。

「俺もタマキが好きだよ」

*

恋愛スピリッツみたいなカゲタマを書いてみたいと思っててやってみたけど、想像以上に難しかったです
中学生のときにこの歌詞書いたって聞いたんですけど、中学生でどんな恋愛をしたんだと思ってしまいました←

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