▽10/22 21:12
「ナオユキ君の腕って本当に凄いね」
それはある日のミーティングルーム。
キヨタカが来るまでの自由な時間でアラタがふと口にしたことからその話題は始まった。
「あれを扱うにはこれくらい鍛えなきゃダメなんだ」
「毎日筋トレしてるもんね」
えっへんと胸を張ったナオユキにユウトが口を添える。
シャツの上から見ても隆々しい筋肉だ。
逞しいその腕をみんなが興味津々で触っていると、次はレイが声を上げた。
「カナエだって凄いんだぞ!」
元はアマネの下で徹底的に鍛え上げられたのだから当然だ。
ただナオユキと違ってシャツの上からわかるようなものではないけれど。
カナエがナオユキ君には敵わないよとやんわり言ってもレイは聞く耳を持たない。
片腕を取られ触ってみなよとみんなの前に突き出す。
「カナエ君は細身で筋肉質なタイプなんだね」
「脱いだら凄いんですって感じ?」
「カチカチだー!」
差し出された腕をみんなが遠慮なく触れる。
それぞれが感想を言い合っていると仏頂面のカゲミツもこちらの方にやってきた。
「俺にも触らせろよ」
むすっとした声にみんなが目を丸める。
二人の関係は公認のものだが、カゲミツはみんなの前でそういう空気を出そうとしない。
だから人前で自分から触らせろと言ったカゲミツに驚きを隠せないのだ。
「どうぞ」
いつも触ってるのにと言い掛けて口をつぐんだ。
伸ばしたままの腕をぺちぺちと確かめるように触れる。
「確かにすげーな」
一瞬目が合ったときに、ぎろりと睨まれたのは気のせいだろうか?
カゲミツ君と声を掛けようとした声はアラタによって遮られてしまった。
「カゲミツ君は全然筋肉ないもんね」
「うるせ」
触らせてよとせがむアラタをカゲミツが面倒臭そうにあしらっている。
正直、気分はよくない。
後でカゲミツに怒られるかもしれないがここは止めに入ることにしよう。
「その辺にしといてくれるかな?」
ニッコリと笑い掛けながらカゲミツの手に触れるアラタの手を剥がした。
「本当バカップルだね」
やれやれと言いたげに溜め息をついたアラタは自分の席に座った。
アラタの言葉に驚いていると、カゲミツに肩を揺すられた。
「いい加減離せ」
「あ、ごめん」
掴みっぱなしだったカゲミツの腕を解放すると、バツが悪そうに視線を落とした。
「ごめん」
「え?」
「ついらしくないことしちまった」
カゲミツの意図が掴めない。
困惑してごめんこ意味を聞こうとするとキヨタカの声が聞こえた。
「痴話喧嘩はそこまでだ」
あとは家で好きなだけやってくれと付け加えられる。
いつもなら噛み付いていきそうなのに、カゲミツはむすっとして自分の席についた。
仕方なくカナエも自分の席に座った。
*
「カゲミツ君、今日はどうしたの?」
言われた通りに家に帰ってから。
靴を脱ぐより先に問い質すと、やはりカゲミツはバツの悪い表情を浮かべた。
「だかららしくねぇことしたって」
「それじゃわかんないよ」
途端にカゲミツの白い肌が赤く染まっていく。
「お前がみんなにベタベタ触られてんのが嫌だったんだよ、察しろ!」
喚くように言い捨ててカゲミツは自分の部屋に逃げ込んでしまった。
取り残されたカナエは状況を把握して、クスリと笑みをこぼす。
「確かにカゲミツ君が嫉妬なんて、らしくないかな」
急いで靴を脱いでカゲミツの部屋をノックする。
多分すぐにドアは開いてはくれないだろう。
だから思いきって自分の気持ちを伝えよう。
嫉妬してくれてありがとうと。
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