▽09/14 17:18

アイツはモテる、そんなこと最初からわかっていたことじゃないか。
違うクラスなのに風に乗って聞いた噂は数え切れないほどある。
いつの間にか約束をしている訳でもないのに落ち合うようになった屋上で、カゲミツはフェンスにもたれながら先程見た光景を思い出していた。

掃除当番なだけでもかったるいのに、更にジャンケンで負けてゴミ捨てまで押し付けられてしまった。
屋上に先に着いているであろうトキオに申し訳なく思いながらカゲミツは中庭を通り過ぎようとしたそのときだった。
ふと見知った後ろ姿が校舎の裏に消えていくのが見えた。
それは今屋上にいるであろうとカゲミツが思い描いていた人物だ。
後から考えればそんなところですることなんてひとつしかない。
しかしすっかり校舎裏で行われるイベントを失念していたカゲミツは興味本位でちらりと覗いてしまったのだ。

「わたし、トキオ君のことが好きなの」

一応堂々と覗くのは憚られたので物陰に隠れていたら、そこは告白の真っ只中だった。
告白されたトキオは背中しか見えないからどんな表情かわからない。
そして告白しているのは同じ学年だけでなく、違う学年からも可愛いと評判の子だった。
遠目から見ても可愛いその子と隣に立つトキオの姿を想像した。
・・・文句のつけどころがないほどお似合いだ。
美男美女カップルとはまさにこんな二人をいうのだろう。
そこまで考えてただの興味本位でトキオの後ろ姿を追い掛けてしまったことを後悔した。
バレないようにそっと立ち上がり目的地であったゴミ捨て場に向かった。

・・・不毛過ぎんだろ。
約束もしてないのに毎日屋上で落ち合う理由。
それはカゲミツがトキオとお付き合いをしているからだ。
同性だとか悩んだりもしたが、お互い好きなんだからいいじゃんと言ったトキオのおかげで壁はあっくなく崩れた。
さすがに公言する気はなかったので人目のつかないところで愛を育んできたのだ。
だけど。

「あんなもん見るんじゃなかった・・・」

お似合い過ぎる二人が脳裏を過ぎる。
お互い好きだからといっても、絶対に越えられない壁はあるのだ。
同性同士では結婚出来ないし、子供だって産まれない。
それに世間に白い目で見られることは間違いない。
今は学生だからいいかもしれない。
けれど将来を考えるとこの関係は不毛だとしか考えられない。
僅かな望みかもしれないが、将来出来るだけ一緒にいたいと思うほどにカゲミツは惚れているのに。

カゲミツがここに来て随分な時間が経ったのに、トキオはまだ現れない。
さっさと来てくれればきっとこんな不安も溶けてなくなってしまうのに。
もしかしたらさっき告白された子のことが気に入ったのかもしれない。
気分が落ち込んでいるときは、どうも物事をマイナスに考えてしまう。
あと5分、5分経って来なければ今日は一人で帰ろう。
そう考えてぼんやり空を眺めているとドアの開く音が聞こえた。

「ごめん、待たせたな」

謝りながらこっちに近付いてくるトキオは爽やかだ。
モテて当然だなと心のどこか冷えた部分でそんなことを考える。
帰ろうと差し出された手をぐっと引っ張ってトキオを隣に座らせた。

「お前、なんで今日こんな遅かったの?」
「カゲミツがそんなこと聞くなんて珍しいな」

一緒目を丸くしたトキオはクスクスと笑って職員室に寄っていたと付け加えた。
告白については教えてくれないらしい。
確かに今までも聞いたことはないけれど。
機嫌を窺うように覗き込んできた顔をぷいっと逸らす。

「遅くなって悪かったって。アイス奢るから機嫌直せよ」

わしゃわしゃと髪を掻き混ぜるトキオの手を乱暴に払った。

「本当に職員室に寄っただけか?」

ジト目で見るとトキオが困ったように笑った。

「・・・見てたの?」
「・・・・・・」

うんとも言えず、頷くことも出来ずカゲミツは沈黙を守った。
それを肯定だと取ったトキオが平然と言い放った。

「断ったよ」
「なんで?」
「なんでって俺にはカゲミツがいるし」

だから大切な人がいるからごめんなさいって。
そうトキオに言われてカゲミツは頬が熱くなるのがわかった。
立てた膝に顔を埋めて腕で頭を抱える。

「もしかして嫉妬してくれたの?」

嬉しそうな声のトキオが背中から腕を回して抱きしめてくる。
いつもなら暑苦しいなと口からついて出てくる文句も言えない。

「カゲミツ、手、繋ごうよ」
「・・・誰か来たら困るだろ」
「今まで誰も来たことないでしょ?」

ほらと腕を掴んで揺さ振ってくるので仕方なく顔を上げた。
まだトキオの方は見れなくて顔は背けたままで。

「ほーら」

トキオの右手がカゲミツの左手を取る。
自分から絡めてくれればいいものを、トキオはそれ以上は何もしてくれない。
だから仕方なく。
つんつんとトキオの指先を自分のものでつつくと呆れたように笑われた。

「・・・ホント、カゲミツには敵わないなぁ」

小さな声で呟かれた言葉はカゲミツには届かない。
よいしょと声を上げてトキオは腰を上げた。

「そろそろ下校時間だし、帰ろ?」

つついている手をトキオの方からぎゅっと絡めてやる。
するとカゲミツも黙って立ち上がった。

「アイス奢れよ」
「わかってるって」

繋いだ手はそのままに、二人は誰もいない屋上を後にしたのだった。

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