▽09/03 22:44

「カナエー!」

ミーティングの開始前。
みんなと談笑していると後からやってきたレイが名前を呼んで後ろから抱き着いてきた。
昔からのことなので驚きもせずにカナエは苦笑いを浮かべる。

「そんなに勢いよく来ると苦しいから」

そう言って絡み付いた腕を外す。
ごめんと口先では言いながら反省した様子を見せないレイはまた繰り返すだろう。
これも昔から変わらないことだ。
スペースは空いているのにレイはぴたりとカナエの隣にくっついて座る。
早速アラタと言い合いを始めたレイにまた苦笑いをひとつ。
いつもの光景に幸せだなとカナエは目を細めた。
ただカナエは気付いていないけれど、いつもと違うことがひとつだけあった。
低血圧のカゲミツが珍しく早めに来ていて、その様子を不機嫌な顔で眺めていたことだ。
そんなことを露とも知らないカナエがレイの頭にポンと手を置き、くだらない言い合いの仲裁に入っていた。

*

「今日行ってもいいか?」

キヨタカが解散を告げた直後、珍しくカゲミツから誘いの言葉を掛けられた。
まだミーティングルームに全員がいる状況で。
以前にカナエが同じことをやって睨まれたことがある。
仲間がいる前で付き合っている雰囲気を出すのが嫌らしい。
例え付き合っていることが暗黙の了解だったとしても。
だから今のこのカゲミツの行動は珍しいというよりかは様子がおかしいといった方が正しいかもしれない。
カナエが驚いて目を瞬かせているとカゲミツの表情が微かに曇った。

「無理ならいい」

踵を返しそうになったカゲミツの腕を咄嗟に掴む。
カゲミツが来るのは大歓迎だ。
それにこの珍しい行動の理由をはっきりとさせたかった。
急いで帰り支度を整えるとカゲミツに腕を引かれた。
挨拶もさっと済ませて家路を歩く。

「今日の晩飯は作ろうぜ」
「うん、いいけど」

いつもはほとんど外食か買ったもので済ませてしまうのに、どういった風のふきまわしか。
夕方にスーパーに行きたがらないカゲミツと二人でスーパーの中に入った。

「カレーでいいか?」
「うん」

カゴに野菜を入れながらカゲミツがそう確認を取る。
どう見たって今日のカゲミツはおかしい。
しかしこんなところで問いただす訳にもいかず、カナエは黙ったままカゲミツの後に続いた。

家に帰ると休む暇なくカゲミツがカレーの調理に取り掛かる。
まるで核心に触れて欲しくないかのように。
カナエが聞くかどうか迷っていると、野菜を洗えという指示が飛んできた。
聞くタイミングを失ったカナエが言われた通りに指示をこなしていく。
結局カレーが出来るまでカナエは何も聞くことが出来なかった。

カレーが出来上がりいただきますと手を合わせてカゲミツは食べ始めた。
そろそろかと思い口を開こうとしたらカゲミツがそれを遮った。

「出来立てが冷めるぞ」

結局カナエはここでも聞くことが出来ずにカレーを口に運んだ。

カレーを食べ終わり片付けも終え一息をつく。
今だとカナエが思ったとき、カゲミツがまたしても驚きの行動に出たのだ。
二人の間にあった距離を、自分から縮めてきたのだ。
ぴたりという擬音語がぴったりなほどくっついてきたカゲミツにカナエが一瞬言葉を失う。

「カ、カゲミツ君?」
「なんだ」

予想外の行動とは裏腹にいつも通りの調子で返される。
どう言おうかと迷っていると、カゲミツが先に口を開いた。

「お前と俺は、その・・・付き合ってるよな?」
「当たり前だよ!」

少々きつい口調になってしまったのは仕方ない。
そんな当たり前のことを今更言われると思っていなかったのだ。
しかも今までしなかったようなことをされた後に。
少しむっとした表情をしてもカゲミツは変わらない。
じゃあとカゲミツは話を続けた。

「じゃあ俺が・・・例えばオミに抱き着かれていたらお前はどう思う?」

相手にオミを選ぶあたりカゲミツは性格が悪い。
そんなこと、許せる訳がない。

「嫌に決まってるよ」

そう言うとカゲミツは一瞬ホッとした顔を見せた気がする。
どういうことだと思っていると、カゲミツが一呼吸置いた。

「じゃあお前が同じことされてたら、俺はどう感じると思う?」

そう言われて、ようやくカゲミツのらしくない行動の理由を理解した。
昔からの行動だといってもカゲミツはそれを知らない。
それに日常的に繰り返されていることでもいつも遅くにやって来るカゲミツは見たことがなかったのだ。
簡単にいうと、嫉妬しているのだ。
だけどそう言うとカゲミツは臍を曲げてしまいそうな気がする。
聞くべきか否かカナエが黙って頭を悩ませていると、答えに迷っていると勘違いしたカゲミツが思いっきり抱き着いてきたのだ。
こんなこと、付き合い始めてから一度もされたことがない。

「俺だって嫌に決まってんだろ」

顔を見られないように首に腕を回して肩に顔を埋めるカゲミツが愛しくて仕方ない。

「ごめんね」

そう素直に告げるとカゲミツが回した腕を外した。
今までにないくらいの至近距離で二人の視線が交わる。
薄く開かれた唇の意味は聞かなくたって理解出来る。
頬を両手で包み軽く口付けると、満足したカゲミツが目に入ったのだった。

(聞かなくて、よかった)

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