▽06/20 18:59

次の任務の為のミーティングが終わり、部隊が解散したときのことだった。
次の任務は余裕そうだと話すアラタとカナエ。
今日はジムに行こうと帰り支度をしているナオユキとユウト。
コーヒーを飲んでいる臣に、眠たそうだけど素早くキーボードを叩いているヒカル。
そしてその隣で破棄のない顔でパソコンに向かっているカゲミツ。
その顔を確認して、タマキはよしと心の中で決意を固めた。

「カゲミツ、今日飲みに行かないか?」
「えっ・・・」

タマキのよく通る声がミーティングルームの中に響いた。
談笑していた仲間達の空気が一瞬固まったことに気付かずニッコリと笑みを浮かべている。
当のカゲミツは予想谷していなかったのか、綺麗な琥珀色の瞳が大きく見開かれている。

「忙しかったらまた今度でいいんだけど・・・」

控え目に付け加えると一瞬思案したカゲミツがコクリと頷いた。

*
「辛い時は酒を飲むのが一番なんだよ」

今日は俺のおごりだと言いながらタマキはぐいっとビールを飲み干す。
隣にいるカゲミツは複雑そうな表情でカクテルに口をつけている。

「カゲミツはかっこいいし優しいし仕事も出来る」

アルコールの力もあっていつも以上に饒舌なタマキにカゲミツが曖昧に頷く。
タマキが元気付けようと発する言葉のひとつひとつが鋭利な刃物となってカゲミツを傷付ける。

「俺なんかよりお前にピッタリな人がいるはずだよ」

その一言が引き金となった。
ぎゅっとグラスを握り締めていた両手を離し、バンとカウンターを勢いよく叩いて立ち上がった。

「ごめん、俺やんなきゃなんねぇこと思い出した」

ごちそうさま、そう言ってほとんど減っていないグラスを残してカゲミツは店を出て行ってしまった。
明らかに様子のおかしいカゲミツを追い掛けようとしたタマキを後ろから呼ぶ声が止めた。

「追い掛けてどうするつもり?」
「様子が変だったから話を聞いて、」
「自分のせいだって、まだ気付いてないの?」

オミの冷たい目がタマキを射抜く。

「フラれた相手に慰められて自分よりいい人がいるって言われる気持ち、考えてみたら?」
「でも親友としてあんなカゲミツ見れられなかったんだ」
「親友の前に君はカゲミツに惚れられてるんだよ」

そこを理解してるの?
感情的なタマキとは対照的にオミは冷静に答える。

「君はカゲミツの為とか思ってるかもしれないけど、それが必要以上にカゲミツを傷付けてるっていい加減に気付きなよ」

じゃなきゃあんな風に逃げるように帰らないでしょ?とピシャリと言い切られてタマキは俯いて口を噤む。

「やっぱり君は偽善者だ」

そう言い残して臣はふらりと店を出て行った。
言い返すことも、往古とも出来ずにタマキはただその場に立ち竦む。
店を出る間際のカゲミツの顔は、昨日の夜みたいに苦しそうに歪んでいた。
あんな顔させたくないと思っていたのに、そうさせたのは紛れも無く自分だ。
よかれと思った行動はただの自己満足でしかなかったんのだ。

「カゲミツなら大丈夫だ」

鬱々とした思考をめぐらせていると、マスターの声が聞こえた。
顔を上げると、目で座るように促されて自分の席に戻った。

「こうしてみんな、大人になっていくんだ」

まるで独り言のように呟いて、スッとグラスを差し出された。
黙ってそれに口をつけると、マスターの大きな手がぽんと髪に触れる。

「カゲミツなら、きっとわかってくれる」

説得力のある大人の声でそう言われ、タマキはそっと目を伏せた。
もうこれ以上傷付けるようなことはしないと、心に近いながら。

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