▽06/24 22:49

「やっぱりここか」
「おまえ、なんでここに・・・」

街灯に照らされた呆れた顔のオミを見てカゲミツが目を見開く。
オミはそんなカゲミツを気にすることなく空いているブランコに腰掛けた。

やんなきゃなんねぇこと思い出したと逃げるように店を出たカゲミツだったが、実際にそんなものはない。
自分を励まそうとするタマキの言葉を聞いていられなくなっただけだ。
それが優しさだとはわかっている。
けれどその優しさが今は辛くて苦しくて仕方ないのだ。
重ねた両手をぎゅっと握り締めると、缶コーヒーを渡してきた。

「これでも飲みなよ」
「ありがと、でも今は一人にしてくれ」
「一人になってここでうじうじし続けるつもりなの?」

慰めに来たのかと思えば、ぐさりと傷をえぐるような言い草にオミを睨みつけた。
何しに来たんだと目で訴える。

「タマキの無神経な言葉に傷付いたカゲミツを見に来たんだよ」
「タマキは俺を励まそうとしてくれたんだ」

感情のままに殴ろうとしたけれど、一瞬見えたオミの切なげな表情に手を止めた。
すぐにその表情を潜ませて、まっすぐにカゲミツを見据える。

「あんなこと言われたのに、まだタマキが好きなんだ?」
「・・・」
「逃げ出すほど辛かったのに?」
「オミ!」

まだ何か言い出しそうなオミを名前を呼んで止める。
するとフッと微笑んで静かにこう言った。

「嫌いになっちゃえばいいじゃん」



頭で考えるより先に、身体が動いていた。
感情のままに殴りかかったカゲミツをオミが涼しい顔で受け止める。
受け止めた拳を引っ張り、そのままふわりとカゲミツを抱き締めた。

「オミっ・・・!」

さっきまで感じていた怒りも驚きも、優しい体温にすっかり溶けてしまう。
今まで我慢していた涙がぽろりとこぼれ落ちた。

「顔は見ないであげるから、存分泣きなよ」

回した腕で背中をトントンとあやすように一定のリズムで叩く。
言葉とは裏腹に優しい声色でそう言われてしまえば次々と涙が溢れてくる。
恐る恐るオミの服を控え目に掴む。
うっと小さく嗚咽を漏らせば背中に回された腕に力が篭った。



どれくらいそうやっていたかはわからない。
しばらくして落ち着いたカゲミツがオミの胸を押した。
あっさりと離れたオミが涙の跡のついた自分の服を見て溜め息を吐き出す。

「そんなに簡単に嫌いになれねぇし、なりたくもねぇ」
「そう」
「俺はまだタマキが好きだ」

そう言い切ったカゲミツを冷ややかな視線でオミが見つめる。

「バカだね」
「でもこれからは前を向けそうな気がするんだ」

眩しい笑顔もまっすぐな性格も、少し時間が掛かるかもしれないけれど友情として受け入れていける。

「ありがとな」

お前がいてくれて助かった。
目線を斜め下に落とし、頬をかきながらカゲミツはそう言った。
その言葉にオミがフッと表情を緩めたことに気付かない。

「なら明日から真面目に仕事しなよ」

だけどそんな雰囲気をおくびにも出さずいつもの調子でオミは返す。
ああと頷いたカゲミツにさっきまでの陰欝としたものが消えているのを確認して、オミは歩き出した。
慌ててその後ろをカゲミツが追い掛ける。

「ついてこないでくれる?」
「帰る方向一緒なんだしいいだろ」
「そのコーヒーは貸しだからね」
「お前ケチだな」

さっきまでの雰囲気はどこへいってしまったのか。
小さな言い合いをしながら二人は並んで帰り道を歩いて行ったのだった。

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