▽04/21 01:34

「ここは・・・ダメだな」

パソコンに向かいながら、トキオが溜め息を吐き出す。
モニターには有名なデートスポットが掲載されている。
クリックして詳細を見てはここはダメだとウィンドウを閉じる。
ここ数日、トキオは帰宅してはこうしてパソコンに向かっていた。
その理由は最近付き合い始めたカゲミツにあった。
諜報と忙しい仕事柄、おうちデートはしているが二人で外に出掛けたことがなかった。
しかしようやくカゲミツの休みが決まり、二人で出掛ける約束を取り付けたのだ。
カゲミツに言うと怒るだろうから口にしていないけれど、これは所謂初デートだ。
せっかくの初デートなんだから、楽しく思い出に残るものにしたい。
そう思ってデートが決まった日からいろいろ調べてみているが、なかなかここだというところが見つからない。
女の子相手ならきっと喜んでくれるだろうけど、相手はカゲミツだ。
うーんと頭を悩ませている間に、初デートの日は近付いてきてしまった。

*

「待ったか?」
「いや、大丈夫だ」

そして初デート当日はやってきた。
待ち合わせ場所で待っていると、約束通りの時間にカゲミツはやってきた。
パッと目に入った服装に、当然かと心の中で思う。

「カゲミツの私服、初めて見た」
「そうだっけ?」

あ、そういや俺もお前の私服初めて見たかも。
こてんと首を傾げてから、あっとカゲミツは表情を変えた。
恋人なのに私服を初めて見るっていうのも変な話だ。
口には出さなかったけれど、クスクスと笑いがもれてしまう。

「何笑ってんだよ」
「なんでもない、そろそろ行こうか」

怪訝な顔をするカゲミツの背中を押して、二人は歩き出した。

トキオが悩み抜いて初デートに選んだ場所。
それは初デートで来るには不似合いな電気屋街だった。
前にちらっとカゲミツが行きたいと言っていた。
ここならカゲミツは楽しんでくれる、そう考えた末でのチョイスだ。
初デートだからと特別なことをしようと考えていたトキオだったけれど、カゲミツが一番楽しめそうなところと考えを変えると答えはすぐに見えた。
それに楽しければきっと思い出にも残るはずだ。
実際、カゲミツは見たこともないくらいキラキラと目を輝かせている。

「久々に行きたいと思ってたんだ」
「ならよかった」
「一人だと来る気が起きねぇんだよなぁ」

そう言いながらカゲミツは目をせわしなくあちらへとこちらへと動かしている。
一人では来ない場所、ならやっぱりここを選んでよかった。
心の中でホッと安心していると突然腕をひかれた。
こっちとまるで子供みたいなカゲミツに苦笑いしながらトキオも後に続いた。

そのまま夜になるまで電気屋街を歩き回り、美味しいとウワサのラーメンを食べて二人は帰路についた。

*

「道、違っ・・・」
「合ってるよ」

真っすぐシンジュクを目指すと思っていた車が、突然進行方向を変えた。
指摘しようとしたカゲミツが言い終わる前にトキオが止めた。
一体どこへ行くつもりなのか、ナビも見ずにトキオは車を走らせる。
どこへ行くのだと聞けばいいのに、カゲミツはただ黙って向かう先を見つめていた。



車がゆっくりと止まった。
無言でドアを開けたトキオをカゲミツも慌てて追い掛ける。

「綺麗じゃない?」

そこから見えたのは帝都だった。
夜だというのに、色とりどりの光で溢れ返っている。

「これでちょっとは初デートっぽくなっただろ?」
「初デ・・・!」
「そうだろ?」

二人の時にしか見せないトキオの子供っぽい表情に覗き込まれては否定も出来ない。
カゲミツは全く意識していなかったけれど、これは二人の初デートなのだ。
そう考えるとなんだか急に恥ずかしくなってきてしまう。

「違うかった?」
「・・・違わない」

素直には頷けず、捻くれた返事をしてしまう。
それでもトキオは満足そうに微笑んだ。

「遊びに行くって決まってから、初デートだと思っていろいろ考えたんだぜ」
「そうなのか」
「定番スポットは好きじゃなさそうだし」
「まぁ、そうだな」

だからカゲミツが楽しんでくれそうな場所にしてみたんだけど。
そう付け加えたトキオは珍しく少し緊張しているようだった。

「すげー楽しかった」

棒読みになってしまったのは、トキオの緊張がカゲミツにも伝染したからだ。
心がどこか、むずかゆい。
ちらりとトキオの顔を見上げると、心底ホッとした顔でよかったと呟いた。

しばらく黙ったまま夜景を眺めて二人だったけれど、おもむろにカゲミツが口を開いた。

「お前がいたから、楽しかったんだぞ」
「・・・え?」
「二人だから楽しかったって言ってんだよ、何回も言わせんな!」

ぷいっとそっぽを向いたカゲミツの耳が赤くなっている。

これは、たまらない。

トキオには楽しかったという一言で充分だったのに。
感情を抑えるかのように口元を手で覆う。
こんな可愛いことを言われてしまえば、このまま帰す訳にはいかない。

「そろそろ帰るぞ」

腕を引っ張るカゲミツに頷いて車の中に戻る。
今度こそシンジュクに向かって走りながらトキオが口を開いた。

「ねぇカゲミツ」
「何だよ」

窓の外に目をやったままのカゲミツがぶっきらぼうに答える。
それも照れ隠しだと思うと、可愛くて愛しくて仕方がない。

「今夜は帰したくない」
「そうかよ」

否定しない、ということは肯定だと受け取って。
自宅へと向けて、トキオは車を走らせたのだった。

*

何でもスマートにキメちゃいそうなお兄さんが、どこに行けばカゲミツが喜んでくれるか悩んでる姿が書きたかったのです
そしてテレビで今夜は帰したくないと言ってるのを聞いて、ぜひともお兄さんに言って欲しいな思いまして
いろいろ突っ込んだら長くなっちゃいました、てへぺろ←

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