▽03/20 02:25
それはソファーでリラックスしながらテレビを見ているときのことだった。
帰宅し着替えを済ませたカゲミツが隣に座ったけれど、どうも浮かない顔をしている。
何かあったかと聞いてやろうかと思ったけれど、今日出掛けた先を思い出してやめた。
カゲミツが自分から言い出してくるのを待とう。
そう思ってテレビに意識をやると、突然肩が重くなって視線を移した。
「・・・甘えてもいいか?」
肩に頭を預けるカゲミツから出たのは予想だにしない一言だった。
自分から指を絡めて握ってくるなんて、普段のカゲミツならしない。
言動のすべてが全くもってらしくない。
さすがにこれは心配になってしまう。
「なんで?」
目を見て尋ねてもカゲミツは答えない。
サラサラとした髪を撫でながらもう一度尋ねた。
「何かあったのか?」
「うん・・・」
親父とまた喧嘩しちまった。
ぽつりと落ちた言葉に、トキオはあぁと納得した。
トキオと暮らすようになってから、カゲミツは時々実家に帰るようになっていた。
両親を大切にしろとトキオが言ったからだ。
しかしその度に口喧嘩をして帰ってくるカゲミツにこう言ったのは先月のことだ。
「喧嘩して言いたいことを言うのも大切だ、でも素直になって喧嘩しないようにするのも大切だ」
その時ふて腐れながら頷いたカゲミツ。
律儀にそれを守ろうとしたけれど、どうやら上手くいかなかったらしい。
「そっか」
髪を撫でていた手を止め、カゲミツの肩に回した。
引き寄せると簡単に腕の中に収まった。
「ちゃんと覚えてたんだな」
「我慢したんだけど、やっぱ無理だった」
「よく頑張った」
また髪を撫でてやると繋がったままの指に力が込められた。
カゲミツが顔を胸に押し付ける。
「すぐには無理でも、いつか分かり合える時がくるよ」
「本当にそんな時が来んのかな」
・・・まだまだ遠い話だな。
そう溜め息をついたカゲミツにトキオが笑う。
「それまで俺がついててやるから」
「本当かよ」
「いつでも甘えていいんだからな?」
これでこそいつものカゲミツだ。
冗談めかしてウィンクをすると、どんどんと胸を叩かれてしまった。
「ふざけんな」
「さっきまであんなに素直だったのに」
口を尖らせて怒ったふりをしてみせる。
すると一度離れていた顔がまた近付いてきた。
一瞬頬に柔らかい感触がひとつ。
「・・・口の方が嬉しいんだけどなー」
「ばーか」
でも、サンキュ。
小さな声でそう付け加えてカゲミツは部屋から出て行ってしまった。
「ほんと、敵わないねぇ」
パタンと閉められたドアに、トキオは一人苦笑いをこぼしたのだった。
*
元ネタはこちら
好きな人「甘えてもいいかな」
トキオ「なんで?」
好きな人「…」
トキオ「何かあったの?」
好きな人「うん…」
トキオ「そっか」
あなたは好きな人を優しく抱き締めた…
脚色しまくりましたね
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