▽01/31 21:51

「ねぇカゲミツ君、海行こうよ」
「なんでこんな時期に」

何の予定も休日のお昼を少し過ぎた頃。
突然腕を引っ張ってそう言ったカナエにカゲミツが眉を寄せた。
夏の海ならまだわかる、けれど冬の海に行く理由が見当たらない。
言葉には出さずとも雄弁に語る表情にカナエは苦笑いをこぼした。

「夏だったら暑いとか、人がいるとか言うでしょ?」
「うっ・・・」
「冬なら人もいないし暑くない」
「いや、寒いだろ」
「それに二人でくっついたらあったかい」

ほわん、そんな擬音がつきそうな笑顔で言われてしまえば無下にすることも出来ずに頷いてしまった。


シンジュクから電車を乗り継いで着いた冬の海は、予想通り自分達以外誰もいなかった。
いつもより距離を縮めて浜辺をゆっくりと歩く。

「さむい」

返事の代わりに触れ合っていただけの腕を組むと、カゲミツがぎゅっと体を寄せてきた。
元々高めのカナエの体温と、元々低めのカゲミツの体温がゆっくりと混じって同じになる。

「ちょっと休憩しよっか」

しばらく無言で歩いていたけれど、ちょうどいい場所を見付けてカナエが指差した。
座ってもお互い特に口を開くこともなく、ゆらりゆらりと揺れる波の音だけが聞こえている。



「なんか寂しい感じがするね」
「誰もいないし、寒いし」
「でも嫌いじゃない」

長い沈黙を破ったのはカナエの一言だった。
水平線の向こうに沈んでいく夕日をじっと見ていたカナエが、突然向きを変えた。

「この景色は今俺達の独り占めなんだよ」

本当に嬉しそうに笑ったカナエに、カゲミツの頬が熱を持つ。
恥ずかしい奴、なんて照れ隠しに悪態をついてしまう。
でもこの景色を二人だけで共有しているという事実は何だか嬉しくて、ポケットに突っ込みぱなしだった手を出した。
視線を不自然に逸らしながら、冷たくなったカナエの指先をなぞる。
さっきまで寒かったはずの頬が今ではすっかり嘘みたいだ。

「本当にカゲミツ君は寒がりだね」

望み通りに結ばれた指に満足していると、ふいにカナエの顔が近付いてきた。
何をするのか反射的に理解したカゲミツがそっと瞼を閉じる。
夕日に照らされた二つの影がゆっくりと一つに重なった。

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