▽01/15 01:54

「顔はいいのに、全然女っ気がないな」
「なんだよ、っていうかそれを言うならお前の方だろ」
「いやいや、俺は本気出せば引く手数多だぞ?」

終業時刻はもうとっくの昔に過ぎているというのに、トキオとカゲミツはまだミーティングルームで仕事をしていた。
特に急ぎの仕事もないのに、うだうだと居座り続けているのはヒカルがいないから。
というのは表向きの理由で、本心は目の前で笑っているヤツと少しでも一緒にいたいという健気な恋心だ。
まぁトキオはそんな気持ちを知る由もないんだけど。

「まぁでもお前、女の扱い上手そうだもんな」

っつーか人の扱いが上手い。
だからうっかり惚れちまったんだよという独り言を心の中で付け加える。

「なんかカゲミツに素直に褒められると調子狂うなー」
「褒めてねーし」
「あ、そう?」

トキオはとぼけた表情を作りながら、カゲミツの近くにマグカップを置いた。
湯気と一緒にコーヒーのいい香りが立ち上る。

「お前ってそうやって、知らず知らずのうちに人を惚れさせそうだな」
「え?」
「何も考えてませんって顔してさ」
「なに、俺に惚れちゃった?」
「んな訳あるか」

休憩をするつもりなのか、トキオはデスクから離れてカゲミツの隣に腰掛けた。
ナチュラルに肩を組まれた上に図星をさされ、ドキリとしてしまう。

「さりげなく触んな」
「仲良くなるのにボディタッチは有効だからねー」

回された腕を惜しいと思いながらも払いのける。
もう、なんてトキオは笑っているけれどバクバクとうるさいカゲミツの心中を知らないのだから仕方ない。

「こうやって女の子を口説いてるんだろ」

ソファーの上に無防備に置かれたトキオの手の平をぎゅっと握った。
まさにたらしだななんて付け加えたのは、ただの悪ふざけだと思って欲しいから。
ぎゅっとするとき、少し遠慮してしまったのは恥ずかしかったからだ。
何も答えないトキオは一体どんな表情をしているのだろうか。
気になるけれどそっちを向けない。
触れ合った指の温かさから意識を逸らすだけで精一杯なんだから。

「俺はもっとスマートに口説くんだけどな」

例えば、なんて言ってトキオは握られた手の平に力を込めた。
逸らした顔を覗き込んで、ニッと笑ったかと思えば見取れるくらいに妖艶に微笑んで。

「君、可愛いね」
「・・・さ、すが引く手数多な奴の口説き方は違うな」
「でもそんな俺を手を握るだけで落とすんだから、カゲミツは大したもんだよ」
「はぁ!?」

さらりと口にしたトキオの言葉にカゲミツが大きな声を出した。
しかし気にすることなくトキオは話を続ける。

「ホント女っ気ないんだな、そこが初で可愛いんだけど」

ジロジロと上から下まで眺める様子はまるで品定めしているみたいだ。
軽く触れただけで気持ちが伝わってしまったのかと眉を寄せるカゲミツの眉間をトキオが撫でる。

「そんなに嫌だった・・・?」

しゅんと寂しそうな表情に変わったトキオに緩く首を振って答える。
嫌なはずがない、むしろ嬉しくて信じられないくらいだというのに。

「引く手数多なのに、俺みたいなのでいいのかよ」
「カゲミツがいいんだよ」

これ以上ないくらいに甘い雰囲気。
トキオは両手を頬に添えてゆっくりと顔を近付けた。
カゲミツはどうしていいのかわからず戸惑っているようだったけれど、そのまま口を押し付けた。




「手、早過ぎだろ・・・」

重なると思った唇は無情にもカゲミツの指だった。
視線を斜め下にゆらゆらと揺らしているのは、恥じらっているのだろうか。
初めて見る姿に無意識のうちに顔が綻ぶ。

「お前、マジで可愛いな」
「それ褒めてんのかよ」
「うん、なんで今まで気付かなかったんだろう」

顔を離してじっくりと顔を見つめると、カゲミツの白い肌にほんのりと赤みがさしている。
行動のひとつひとつがが慣れてなくて愛しい。

「これからよろしくな」
「おう・・・」

可愛げのない返事も、顔を赤らめているだけでこんなに可愛く感じるのだろうか。
もう一度肩に腕を回してゆっくりと引き寄せる。
頬に落とされたファーストキスを、カゲミツはぎゅっと目をつむって受け止めたのだった。

*

なんかトキオさんの周りは駆け引き上手なお姉さんが多そうだなーと思いまして
薄々はカゲミツの気持ちに気付いてたけど行動には出ないだろうと思っていたらやられちゃいました、なトキオさんのお話でした
カゲミツは恋愛経験値少ないといいなぁと思います

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