▽12/16 01:27

「っうわ!」

それはとある昼下がり。
特に急ぎの仕事がある訳でもないカゲミツが適当にキーボードを叩いているときのことだった。
オミがいきなり近付いてきたと思えば、両脇に手を差し込んでくすぐってきた。
何とも言えない感覚に身をよじって離れる。
睨みつけてみても、オミは何やら嬉しそうに笑うだけだ。

「くすぐったかった?」
「当たり前だろ!」
「カゲミツは俺のこと、好きじゃないよね?」

唐突な質問に眉を寄せながらもこくんと頷く。
ついこの間もちょっとした言い合いから大嫌いだと宣言したばかりだ。
何が言いたいのだと言葉に出さずとも訴えてくる視線をさらりと受け流して、斜め後ろで成り行きを見守っていたヒカルを振り返る。

「よかったな」

いかにも棒読み、無表情でそれだけ告げるとコンビニ行ってくると出て行ってしまった。
一体二人して何を企んでいるんだ。
本意ではないがオミの名前を呼んでこちらを向かせる。

「何がしてぇんだ」
「ちょっとした実験だよ」

いやに機嫌が良いオミがにこやかに答える。
何だか嫌な予感がするけれど、このまま放っておくのも気味が悪い。

「どういうことだ」
「いや、この前ネットである記事を読んだんだ」

勿体振って話すオミをギロリと睨みつける。
そんな怖い顔しないでよ、なんて言いながら隣に腰を下ろした。
互いの膝が触れそうな距離を、腰をひいて少し開ける。

「くすぐられて、くすぐったいと感じるのは好意を抱いている相手だけらしいんだ」

ニッコリ、そんな擬音がつきそうな笑顔を向けられる。
意味は理解出来た、けれど理解したくない。
そんな葛藤のせいか言葉に詰まるカゲミツに、オミは殊更優しい声で言った。

「カゲミツは俺のこと好きなんだよ」

そんなことはある訳ない、と言い切ってしまいたかった。
けれどくすぐったさを感じてしまったのは事実で何も言い返せない。

「嫌よ嫌よも好きのうちってことでいいよね?」

勝手に話を進めようとされてようやく思考が正常に働いた。

「待て、誰もそんなこと言ってねぇだろ」
「身体は正直なのに」
「変な言い方するな!」

デスクで書類を眺めていたキヨタカがその言葉に反応してこちらを見た。
へぇ、なんて声を上げて、明らかに誤解されている。
事実なのになんて膨れるオミをとりあえず一発殴っておいた。
少し離れた場所にいるトキオが痴話喧嘩?と誰かに尋ねる声が聞こえて頭が痛くなる。

「万が一俺が好きだったとしてもお前は嬉しくねぇだろ」
「そんなことはない、嬉しいよ」
「なんでだよ、気持ち悪い」

そう言ってみてもオミはクスクスと笑うだけだ。
やっぱりコイツとは合わない。
パソコンに向かい直し、作業を再開させようとしたときにヒカルが帰ってきた。

「で、どうなったんだ?」

けだるそうに腰掛けながらオミに尋ねている。
元々話をしていた風だった二人のやり取りがやけに気になる。

「さっきから何二人で話してんだよ」
「まだ言ってなかったのか?オミが」
「ヒカル、それ以上は言っちゃダメだよ」

開きかけた口をオミが制する。
それでも続きを言ってくれることを期待してヒカルを見たが、それもそうだと一人納得して口を閉じてしまった。

「何か言いたいことがあるのか?」
「俺が何を言いたいか、自分で考えなよ」

今まで散々冷たくされた仕返しだ。
オミはそう言って自分のデスクに戻ってしまった。

「ま、二人とも頑張れよ」

いかにも適当な感じなヒカルの言葉をカゲミツが理解するのは、まだまだ先の話となるのだった。

*

好かれていないと思ってたけど、意外とそうでもなくて浮かれちゃったオミさん的な←
多分カゲミツは自分では気付かず、オミさんの直接なアプローチでやっと気付けばいいと思います

ついったであの話を読んだ瞬間、おみかげが浮かんじゃったのだから仕方ない
後から読み返したら、単語ひとつすっ飛ばしてたことに気付いたけどまぁいいですよねー

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