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「オミはどうした?」
「知らねー、寝坊じゃねーの?」
「ならお前が起こしてきてやれ」

面倒だ、そう思うけれど一応上司の指示なんだから従わない訳にはいかない。
それにないとは思うけれど万が一何かあったら困るし。
けだるそうに立ち上がり、行ってくるとだけ告げてミーティングルームを出た。

オミの自宅はバンプアップの上にあった。
とりあえずインターホンを押してみたけれど、出て来る気配はない。
仕方ないとポケットをあさって、この部屋の合鍵を取り出した。

「オミー、仕事の時間だ。起きろ」

そう言いながら家に足を踏み入れたけれど起きてくる様子はない。
随分ぐっすり寝てるもんだと寝室のドアを開いて、状況を理解した。

「来てくれたんだ・・・ゴホゴホ」
「風邪か」
「そうみたい」
「熱は?」

喋るのが辛いのかオミは小さく首を振った。
これだけ苦しそうにしていれば体温を測る余裕も、連絡する余裕もないだろう。
とりあえず布団をかけ直して、体温計を探しに部屋に出た。

勝手知ったるオミの部屋で体温計を探すのは簡単なことだった。
ついでにタオルを持って寝室まで戻る。
オミに体温計をセットして、カゲミツは携帯を取り出した。

「もしもし?風邪ひいてるみたいだ」
『そうか、じゃあお前も休みにしておこうか?』
「いや、いい。それよりトキオに代わってくんねぇか?」

会話を聞いていたオミがのろのろとカゲミツの服を引っ張る。

「カゲミツ、看病」
「トキオに頼む」

不服そうなオミを諭そうとしたらトキオが電話に出た。

「オミが風邪ひいたんだ」
『キヨタカ隊長から聞いたよ』
「お前に看病を頼みたいんだ」
『いいけど俺でいいのか?』
「いいんだ、頼む」

そう言うとトキオはわかったと言って電話を切った。
そのうち必要なものを揃えてここに来てくれるだろう。
安心して携帯をポケットにしまうと、さっきより強い力で服を引っ張られた。

「カゲミツが看病してくれないの?」
「俺よりトキオの方がいいだろ」
「俺はカゲミツに看病してもらいたい」
「早く元気になって欲しいんだよ」

だから俺よりトキオの方がいい。
そう言ったカゲミツにオミが目を瞬かせた。
こんな素直に言葉に出すなんて珍しい。
何も返せずにいると、濡れたタオルがそっと額に置かれた。

「トキオが来るまでは一緒にいてやるから」

だから寝ろと汗に濡れた髪に手を通した。
労るように触れ方が心地好くて目を閉じた。



しばらくウトウトと眠っていたみたいだ。
カタカタとキーボードを叩く音にうっすらと重たい瞼をあげる。

「目覚めた?」
「・・・カゲミツは?」
「下で作業してる、それより具合はどうだ?」

まだ意識は朦朧とするけれどカゲミツが来たときよりは随分とマシな気がする。
コホコホと咳をすると背中を摩ってくれた。

「飯は食えそうか?」
「わかんない」
「まぁとりあえず準備は出来てるから作ってくるわ」

額に乗せたタオルを取り替えて、トキオは部屋を出て行った。
一人になった瞬間、寂しさがグッと押し寄せてくる。
病気のときは弱気になるなんて言うけれど、そんな感覚はすっかり忘れてしまっていた。
重い身体をなんとか動かして寝返りをうつ。

「オミ、お粥出来たぞ」
「うん」
「辛かったらいいけど、カゲミツの為にも出来たら食って欲しいな」
「どういうこと?」

ふーふーとお粥を乗せたスプーンに息を吹き掛けながらトキオがニヤリと笑う。

「カゲミツにお前が傍にいなくていいのかって聞いたんだ」
「うん」
「俺がいても治してやれないからってさ」

苦しむ顔は見たくないだなんて、お前は愛されてるんだな。
トキオが付け加えた言葉に、風邪と違う熱さを感じた。

「だからカゲミツの為にも、早く元気になろーぜ」

そう言って差し出されたお粥を一口食べる。
しんどいけれど、食べれないことはない。
喋るのが面倒で黙って口を開くと、またスプーンを運んでくれた。
なんとかすべて食べ終わって横になる。
咳は以前出るけれど意識はだいぶはっきりしてきた。

「もうちょっと寝ておきな」
「ん」
「仕事が終わったら、カゲミツも来てくれるから」

その一言に安心してオミは再び深い眠りについた。

次にオミが目を覚ましたのは、カーテンの隙間から朝日が差し込む頃だった。
身体が妙に重くて顔を少し上げると、そこにはカゲミツの上半身が乗っかっていた。
肩に毛布が掛かっているところを見ると、トキオが掛けて帰ってくれたのだろう。
時計を見ようと顔を動かすと、サイドテーブルに小さなメモが挟まっていた。

「後は温めるだけだから、次はお前が食わせてやれ」

そのメモを見て、オミが口元を緩める。
昨日と比べると体調はかなり回復した。
しかしこう素直に甘えさせてくれるは滅多にない。

「カゲミツ」

太もものあたりにある身体をゆさゆさと揺する。
まだ寝ぼけ眼のカゲミツにおはようと告げると、しまったという表情に変わった。

「おはよ」
「大丈夫か?」
「ああ、まだちょっと咳が出るけど」

ゴホゴホとわざとらしく咳をすると、慌てて背中を摩ってくれた。
それからサイドテーブルにあるメモをカゲミツに差し出す。

「トキオからの伝言みたいだよ」
「・・・そんだけ喋れるなら一人で食えるだろ」
「病み上がりなのにカゲミツは冷たいんだね」

しゅんとして顔を俯けると、カゲミツが乱暴にメモを引ったくった。

「今回だけだからな!」

ドタドタとキッチンへ向かったカゲミツに笑いがこぼれる。
その後、熱すぎるお粥に火傷しかけたり、不器用なせいでベッドにこぼしたりもしてしまったけれど穏やかな一日を過ごしたのだった。



「カゲミツは風邪をひくと優しくしてくれるんだね」

あまり見せてくれない愛情も確認出来たし、たまにはいいかもしれない。

「もう絶対看病なんかしねぇからな!」

なんてカゲミツは言っているけれど。

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