▽11/28 23:25

「くしゅん」
「ちゃんと温まらなかったの?」

クシャミをしたカゲミツにカナエが一歩距離を詰めた。
人もまばらな夜道を二人で肩を寄せ合って歩いている。
カナエが自分のマフラーをかけようとしたのはさすがにカゲミツが拒んだ。

「寒いんでしょ?」
「平気だ」

くっついた距離をカゲミツが大きく一歩踏み出して開ける。
その途端、またクシャミをするのだから放っておけない。
もう一度カナエが距離を詰めると、やはり寒かったのかそのまま歩き始めた。

「なんでお前んちは風呂がねぇんだよ」
「一人だから必要なかったんだよ」

それに銭湯が歩いてすぐのところにあるのだから。
カナエにとって、家というのはただ睡眠を取るだけの部屋だった。
だから風呂がなくたって平気で暮らせていたのだ。

「早く風呂付きの家に引っ越せよ」
「俺は別に今の家に不満はないよ、一人で住む分には」

ブーブーと文句を垂れるカゲミツにカナエが優しく微笑みながらもしっかりと否定する。
ただの寝床だと思っていた部屋でも、ある程度長く住むと愛着が湧くものだ。
家具も必要最低限しかない部屋だけど、住み心地は悪くない。

「でも」
「でも?」
「カゲミツ君も一緒に引っ越してくれるなら考えてもいいかな」

言い終わってカゲミツの顔を見つめる。
街灯の微かな光でも、白い肌が赤くなっているのがわかった。

「バ、な、何言ってんだ!」
「カゲミツ君は遠回しに俺と引っ越せって言ってるのかと思ってた」

違うの?と逸らされた顔を覗き込む。
泊まりに来る度に引っ越せなんて言われると、遠回しなアピールなのかと思うのも仕方ないだろう。
カゲミツは動揺して口をパクパクとさせている。

「たまには一人でバスタブに浸かりたいんでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・」
「一緒に引っ越せば、いつでも一人で入れるよ」

風呂上がりに寒い思いだってしなくていい。
そう付け加えてもカゲミツは渋い顔をしている。
だから周りに誰もいないことをいいことに、カゲミツの耳に口を寄せた。
冷たくなってしまった耳にフッと息を吹き掛けるとぶるりと震える。

「・・・それにお風呂えっちも出来るしね」
「絶対やだ!」

何考えてるんだと耳を押さえるカゲミツの顔は真っ赤になっている。
初な反応が可愛くて、ついクスクスと笑いが洩れてしまった。

「俺は興味あるけどね」
「ふざけんな!寄るな変態!」

腕に触れていた温もりが急に離れていって、ぶるりと寒さを感じる。
ふと、いつかはこんな風に離れてしまうのかと暗い未来を思い描いてしまった。

「カゲミツ君、本当に一度考えてくれない?」
「風呂でとか絶対やだからな」
「そうじゃなくて同棲の方」

もし離れてしまうとしても、それまでの時間を一緒に過ごしたいから。
考えてることが伝わったのか、カゲミツも茶化さずに頷いた。

そのまましばらく黙って歩いていた二人だったが、カゲミツが突然声を上げた。

「カナエ」
「ん?」
「コンビニ寄りたい」
「いいけどどうしたの?」
「寒くなると、なんか肉まんが食いたくなるんだよな」
「やっぱ寒いんじゃん」

バツが悪そうに目を逸らしたカゲミツの手を握って、自分のポケットに突っ込む。
嫌がると思ったけれど、意外にもカゲミツは手を出す気配はない。

「コンビニ近くになったら離せよ」
「・・・うん」

重ねた手の平の体温が心地好い。
気付けば冬はもう目の前まで来ている。
来年も二人でこうしていることを願いながら、コンビニへと向かった。

*

ピザまんを食べると、冬が来たなって思うのです

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