▽11/25 00:48

オミもヒカルもいない静かなワゴン車の中。
捗るかと思われた作業は思いの外進みが悪い。
休憩でもしようか、でも早く仕上げてしまいたい。
カゲミツがそんな葛藤を繰り広げていると、コンコンと控え目にドアをノックする音が聞こえた。
ヒカルなら帰ってくるはずがないし、オミならノックなんてする訳がない。
ちらりと時計に目をやるともうあと一時間で日付が変わるというところだ。
こんな時間に訪ねてくる人物が思い当たらない。
不審に思いながらもガラリとドアを開けると、ニッと笑顔を見せるトキオが立っていた。
片手には紙袋を持っている。

「こんな時間に何の用だ?」
「今日はカゲミツ一人で、どうせ飯なんか食ってないんだろうなと思って」
「あ・・・」

トキオに言われて思い出した。
夕方仲間達と別れてからずっとパソコンと向き合いっぱなしだった。
図星と口にしなくても分かるカゲミツに、トキオがおかしそうに笑って紙袋を差し出した。

「優しいリーダーからの愛情のこもった差し入れでーす」
「何が愛情のこもっただよ!」

そう言いながらも素直に受け取るカゲミツにトキオがまた笑う。
否定するのは優しいリーダーの方がよかったのになぁ、とは言えずにワゴン車の中に上がり込んだ。

「夜食といえばおにぎりに限るでしょ?」

具は何がいいかわかんなかったから適当に入れといた。
カゲミツがとラップのかかった皿を取り出す。
まだ温かいところを見ると、作ってすぐに持って来てくれたのだろう。
ラップを外すカゲミツをトキオはじっと眺めている。

「何だよ」
「せっかく作ったんだから、感想聞きたいじゃん?」

早く帰れと言いたいところだけど、作って、更に持って来てくれたトキオにそう言う訳にもいかず黙っておにぎりを口に運ぶ。
あ、それは鮭ね。
車内を見渡していたトキオがタイミングを見計らったように口を挟む。
何だよこの状況。
誰に言う訳でもなく一人心の中で呟いておにきりにかぶりついた。

「・・・うま!」
「そりゃ愛情たっぷりだからね」
「冗談抜きでまじでうまい!」

さりげなく混ぜ込んだ本音は冗談と流されてしまったらしい。
まぁ今はまだ言うつもりはないからいいのだけど。
トキオのそんな気もしらないで、カゲミツはおにぎりを平らげていく。
最初はあんなに警戒した様子だったのに、食べ終わる頃にはすっかりそれも解けていた。

「本当に料理うまいのな」
「ならまた作ってやろうか?」
「マジか!?」

目を輝かせたカゲミツに、トキオも笑顔で答える。
こんなに嬉しそうなカゲミツを見たことあるだろうか。
そうさせたのが自分の手作り料理だと思うと、ちょっと優越感。
食べ終えた皿を紙袋に戻し、作業途中のパソコンを覗き込んだ。

「カゲミツすげーな」
「何が?」
「何やってるかちっともわかんない」

アルファベットが映し出されたモニターを指差す。
プログラムの作成のようだが、どういうものなのかはさっぱりわからない。
へぇと感心した声でトキオが眺めていると、カゲミツが軽く説明をしてくれた。

「そんなプログラムまで作るの?」
「俺にはヒカルがいるんだぞ」
「そりゃそうだけど、やっぱ凄いよ」

トキオがそう言うと、カゲミツは横を向いて素っ気なく答えた。

「うちの諜報はどこにも負けないな」
「ヒカルがいるからな」
「カゲミツも充分凄いって」

こんなプログラムを他の諜報は作れないだろうとトキオが付け加える。
それはカゲミツにも自負があったのか、ポリポリと頬をかいた。
俯き加減で恥ずかしそうに、でも小さな声でありがとうというのが聞こえた。

「作業少し見ていってもいい?」
「なんでだよ」
「他の奴がいると狭くてゆっくり見れないじゃん」

カゲミツの了承を得る前に近くにあった椅子に腰掛ける。

「リーダーとして仕事ぶりをチェックしてやるよ」
「今かよ」

迷惑そうだけど、渋々カゲミツはパソコンの前に座った。
キーボードに指を置いた瞬間、スイッチが切り替わる。
カタカタとキーボードを見ずに打ち込まれる文字に感心する。
次にキーボードを叩く指を眺める。
骨張っているけれど白くて綺麗な指だ。
いつの間にか画面よりも指に意識を集中させていると、急にカゲミツが名前を呼んだ。

「今日はそろそろ終わろうと思うんだけど」
「あ、悪い悪い」
「トキオだって、ちょっとくらいは出来るんだろ?」
「俺は本当、簡単なことしか出来ないから」

ヒラヒラと手を振る。
今日は充分関係を進展させた。
次に来る約束を取り付けただけでも上出来だ。
トキオが心の中でそう思いながら帰る準備をしていると、パソコンの横にあるものを見付けた。

「カゲミツもやってんの?」
「え?」
「そのゲーム」

携帯ゲーム機と、横に置かれたソフトを指差す。

「お前もやってんの?」

そう聞いてくるカゲミツの目が輝いたような気がする。
コクンと頷くと、満面の笑顔が広がった。

「オミとかヒカルとかも誘ったんだけど、全然やってくんなくて」

やっと一緒に出来る奴を見付けたというカゲミツに、ニッコリと笑い掛ける。

「じゃあ今度俺の家で一緒にやろうぜ」
「マジで?!いつにする?」
「飯も作ってやるよ」

やったー喜ぶカゲミツはまるで子供のようだ。
見たことのない一面に少し驚いたけれど、これは願ってもないチャンスだ。

「あんまりやり過ぎんなよ」
「わかってるよ、じゃあ明日な」

機嫌よさそうに手を振るカゲミツを見ながらワゴン車のドアを閉めた。
次にワゴン車に行く予定だけではなく、家に招く口実まで手に入れてしまった。
緩まる頬を抑えきれないまま、トキオは自宅へと向かって歩き出した。

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