▽08/23 14:19

「全部アイツに教えてもらったの?」

またもやカゲミツのいないワゴン車。
前回同様お互い無言でキーボードを叩いていたら、オミが口を開いた。
ちらりとオミを見遣る目線の流し方が艶やかだ。

「全部って?」
「それだよ」

どれだよと悪態をつきながらヒカルがチョコレートを口に含む。
指で摘んで放り込むまでの仕種がいやに色気がある。
本人は至って普通のつもりかもしれないが、ヒカルの一挙一動は妙に色っぽいのだ。

「何が言いたいのか分かんねぇよ」
「だから全部あの眼鏡の調教なのかって聞いてんの」

紙パックのコーヒーを飲んでいたヒカルが噴き出しそうになって慌てて口を押さえた。
昼間から何言ってんだコイツは。
この前カゲミツの好きなところを聞いてから二人で話す機会は増えたけれど。
咳き込むヒカルの背中を面倒臭さそうにオミが撫でる。
こうなった原因はお前のせいだろと思いながらも一応ヒカルは礼を言った。

「君は小さいときからあの眼鏡とただならぬ関係だったんだろ?」
「時間と言葉を選べよ」
「何を今更」

フッと笑ったオミに溜め息を吐き出す。
確かに最近カゲミツのいないとき限定でかなり突っ込んだ話をする間柄にはなったけれど。
それにしても唐突過ぎだし、オミの言いたいことがわからない。

「さっきから何が言いたいかちっともわかんねぇ」
「君の仕種って、いちいちエロいんだよね」

だからって変な気持ちにはならないけど。
ご丁寧に付け加えられた言葉にヒカルは引き攣りながら笑う。

「君は小さいときからあの眼鏡の手ほどきを受けていたんだろ?だからかなって思って」
「お前仕事中に何考えてんだ」
「俺がカゲミツより年上だったら手ほどきしてあげられたのになって思っただけだよ」

さらりと何ともない風に言ったけれど。
それは自分よりも小さなカゲミツにあらぬことをしたいと言ってるようなものだ。
白い目でオミを見遣る。

「そういう趣味があったのか?」
「小さい頃からやってたら、もっと従順になったんじゃないかって思ったんだ」

それに俺が変態というなら、実際にやった君の恋人はれっきとした変態だろ?もちろん君もね。
そう言われてしまえば返す言葉がない。

「・・・嫌がってるのがいいんだろ?」
「もちろんそれもいいんだけど、たまには従順なのも見たいじゃん」

真顔で言ってのけたオミに、恋人を思い出した。
お前は縛ったぐらいではもう嫌がらないならなと笑った憎らしい顔。
結局は無い物ねだりなのだ。

「でもずっと従順だと飽きてくるぜ」
「そんなことないだろ」
「それがあるんだよ、男って我が儘だからな」

ずっと従順なカゲミツなら飽きる気がしない、なんてオミはぶつぶつと呟いている。
だからヒカルは話題をカゲミツに移した。
これ以上自分のことを聞かれるのは御免だ。

「で、もしお前が年上ならカゲミツにどんなことしたかったんだよ」
「師範学校時代のカゲミツを部屋に連れ込むんだ」
「連れ込むって、その発想がもう危ねぇよ」

冷静なヒカルのツッコミはオミの耳には届かない。
普段飄々としているくせに、身振り手振りまで加え力説している。

「それで今日は大人のキスを教えてあげるって、カゲミツの顎を掬うんだ」
「師範学校時代のカゲミツならもう捻くれてるだろ」
「カゲミツがもっと小さな頃から知り合いなら素直なはずだよ」

まさにそこにカゲミツがいるようにオミが顎を掬う素振りをする。
ヒカルが相手するのに飽き、パソコンの方を向いてるのに気付かない。

「最初は触れるだけのキスからだんだん舌を絡めていくんだ。初めてのことに困惑するカゲミツに一つずつ教えながらね。息が上がった頃にはあの白い肌が上気してるんだ、煽られるだろ?俺も我慢出来なくなって、もう一歩進もうかって問い掛けるんだ。カゲミツは顔を赤く染めたまま、うんって」
「言う訳ねぇだろ、バカ!つうか何の話してんだ」

妄想が膨らんでぺらぺらと話し続けるオミを止めたのは話題の張本人、カゲミツだった。
怒りと恥ずかしさで顔を赤くしている。

「何って俺がカゲミツを調教する話」
「お前に素直になって欲しいんだとよ」

マジやってらんねぇとヒカルがノートパソコンを片手に立ち上がった。

「俺しばらくキヨタカんとこ行ってくるわ」
「ヒカル!ってかオミッ・・・ンンッ」

出て行くヒカルを止めようとしたら、オミに捕らえられてしまったカゲミツ。
そのあとカゲミツがどうなったのかは、オミだけが知っている。

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