▽08/03 23:04

当たり前に続くと思っていた日常は、あまりにも容易く壊れてしまう。
壊れてからそのことに気付いたって、もう遅いのに。

カゲミツが何者かに撃たれた。
緊急治療室に運ばれてからもう随分と時間が経つけれど、手術中のランプは未だ点灯したままだ。

(神様、どうかカゲミツを連れて行かないで)

溢れ出る思いは声に出さず、ただただ胸の奥で何度も何度も祈ることしか出来なかった。


あれから三日が経った。
神様への祈りが通じたのか、カゲミツは何とか一命を取り留めることが出来た。
でも、まだ祈りが足りなかったのかもしれない。
一命は取り留めたものの、カゲミツはあの日からずっと眠り続けている。
いつ目を覚ますかわからない。
もしかしたら、このまま目を覚ますこともないかもしれない。
そう医者に聞いたときは、頭が真っ白になってしまった。
だから今日もこうしてカゲミツの病室を訪れる。

「なぁカゲミツ、今日はいい天気だぞ」

話し掛けてもカゲミツは反応を示さない。
一瞬、最悪の結末が過ぎって頭を振った。
そんな訳ない、絶対にない。
自分がそう信じていないと、気がどうにかなってしまいそうだ。
伸ばされたままの白い手を、ぎゅっと握り締めた。

カゲミツが撃たれたことは部隊に大変な衝撃をもたらした。
自分達のアジトで起こったことも大きかった、けれどそれよりもカゲミツのいない日常はJ部隊のメンバーに大きな影を落とした。
いつも愛らしく笑っていたアラタは笑顔をなくし、いつも自信に溢れているキヨタカですら憔悴を隠しきれない。
生活を共にしていたヒカルは、見ているのも辛いほど必死になってナイツオブラウンドの情報を探している。
いつも楽しそうな会話が聞こえていたミーティングルームは、今や重い沈黙に包まれている。
そんなミーティングルームをぐるりと見渡して、タマキは小さく息を吐き出した。
カゲミツがいれば、きっとどうしたと声を掛けてくれていただろう。
無意識のうちに浮かんだ顔に、胸が痛んで目を伏せた。
こんなことになるまで気付かなかったけれど、カゲミツに随分と救われていたのだ。
少し気が沈んだと溜め息を吐き出せばどうしたのだと声を掛け、タマキなら大丈夫だと笑顔を見せてくれた。
その笑顔が、どれほど自分を元気付けてくれていたのか。
今頃になって自覚して、タマキは唇を噛み締めた。


「なぁ、そろそろ起きろよ」

もう季節が変わっちまったぞ。
そう呟いてもカゲミツは相変わらず眠ったままだ。
元々白かった肌の色はより一層白さを増し、元々細かった腕は更に細くなっていた。
それがカゲミツを置いて進んでしまった時間の長さを感じさせて切なくなる。
握っていた手をベッドに戻して、布団を掛け直した。

「また明日も来るから」

そう呟いてタマキは病室を後にした。
その言葉に、カゲミツがぴくりと小さく反応したことには気付かずに。

翌日もタマキはいつもと同じようにカゲミツの病室を訪れていた。
カゲミツが撃たれてから、ここに来ることが当たり前になった日常。
自分にもう一度笑い掛けて欲しい。
そう思いながらもだんだんと希望が薄れてきている、そんな日のことだった。

「俺、やっと気付いたんだ」

いつものように眠り続けるカゲミツに、タマキが独り言のように語りかける。

「俺はお前の笑顔に助けられていたんだって」

気付くの遅過ぎるよな、と呆れたように笑う。
カーテンを開けた窓から差し込む光を反射してキラキラと輝く髪をかき上げた。

「なぁカゲミツ、頼むから目を覚ましてくれよ」

泣きそうな声で懇願するように今日も手を握り締める。
カゲミツがいない日常は心にぽっかりと穴が空いたみたいだ。

「・・・すき・・・だ、すき、なんだ・・・」

握っていた手にもう片方の手も重ね、こつんと額にぶつける。
触れたところからこの気持ちが伝わればいいのに。
ぽつり、絞り出るように言葉が落ちた。


「・・・カゲミツ?」

重ねたカゲミツの指が、微かに動いた気がして目を開けた。
まさかそんな訳ないよな、諦めた気持ちでカゲミツを見つめる。
長い睫毛がほんの小さく揺れたのが見えて、息を詰めた。



「タマキ、毎日サンキュウな」

あれから目を覚ましたカゲミツは順調に体調を回復させていった。
眠っていた時間が長かったのですぐに退院とはいかないけれど、カゲミツの顔色は明るい。
軽く頬をかきながらはにかむ姿に、タマキは笑顔で答える。

「気にするなよ、俺がカゲミツと一緒にいたいんだ」

その言葉に赤くなるカゲミツが心の底から愛おしい。

「早く元気付けになれよ」
「おう!」

元気に笑ったカゲミツにタマキもニッコリと微笑み返す。
あの時の言葉をもう一度伝えるのは、もう少し先にしよう。
そう考えてサイドテーブルの花を入れ替えた。

*

ただ好きなバンドが解散するってだけの話ですよ
細くともずっと続いていくだろうって勝手に思っていたから衝撃が大きかったっていうだけです
昨日はだいぶぐじぐじしてて、お話はしばらく書けないなぁって思ってたんですけど
ありったけの感情を文字にぶつけてみたらすっきりとしました

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