▽08/06 00:23

「もしもし、今日暇か?」
「お前から電話なんて珍しいな。デートのお誘い?」

たまの休日、朝から掃除に洗濯と溜まっていた家事をこなしているところに一本の電話。
いきなり問い掛けられた予定に冗談で返したら電話を切られそうになって慌てて前言撤回。
何かと話を聞いてみたら、タマキからの頼まれ事を手伝って欲しいという内容だった。

「っていうことで一緒に行ってくんねぇか?」

引き受けてしまうとせっかく家事をしようと思っていた休日が潰れてしまう。
けれどカゲミツが頼ってくれているのは嬉しい。
答えは天秤にかけるまでもなく明白で、家事は次の休みにまとめてやることに決めた。



「せっかくの休みなのに悪いな」
「いいよ、カゲミツの頼みだったら」

申し訳なさそうにするカゲミツの金髪をがしがしと撫でる。
さぁ行こうと促して関係者入口へと足を進めた。

「へぇ、こんなんなってんだ」
「俺も初めて来たけど、面白いな」

二人でキョロキョロと歩いていると、タマキから聞いていたのか一人の男性が待っていた。

「すみませんが今日はお願いします」

丁寧にお辞儀をされ二人もぺこりと頭を下げる。
そしてさぁこちらですと案内された部屋に入った。

用意されていた着ぐるみの中に入る。
通気性が悪くサウナみたいに暑い。
しかしタマキに頼まれたのだから断る訳にも行かず、カゲミツ達は炎天下の屋外へと足を踏み出した。


暑い。
汗がだらだらと流れるけれど拭うことも出来ない。
頭がクラクラして、近くにいる人の声が遠く感じる。
視界がぐにゃりと歪んで、知った声が自分の名前を叫んだのを最後にカゲミツは意識を失った。



「・・・あ、れ?」

さっきまで確かに炎天下にいたはずなのに。
カゲミツが目を覚ますとどこか部屋の一室で横になっているようだった。
首には水で濡らしたタオルが巻かれている。
状況が理解出来ずに首を横に向けると、心配そうな表情のトキオが目に入った。

「目、覚めた?」
「おう・・・俺は?」
「いきなり熱中症で倒れちゃったの、みんなびっくりしたんだから」

もちろん俺もな、とトキオは付け加えて額に乗せられたタオルを交換する。

「着ぐるみは?」
「今はちょっと休憩ってことにしてもらってる」
「そっか・・・逆に迷惑掛けちまったな」

溜め息混じりに出た呟きにトキオが目を細めた。
こんなときまでタマキのことを考えるんだな、お前は。
言葉には出さず、そっと胸の中にしまいこんでカゲミツの額に触れる。

「タマキの為だからって、頑張り過ぎ」
「好きな奴に頼られたら誰だって嬉しいだろ」

カゲミツの答えはまさに今朝の自分と同じで。
クククと笑いを噛み殺した。

「何笑ってんだよ」
「いや、何もないよ」

さすがにカゲミツをもう一度着ぐるみに入ってもらう訳にはいかないので、残りの時間はトキオが一人で風船を配った。
もう帰っていいよと言われる頃にはすっかり日も落ちてしまっていた。
人気のなくなった遊園地の前を二人並んで歩く。

「今日は悪かったな」
「本当にな。家事も殆ど出来なかったし」
「今度何か奢るから」
「奢らなくてもいいから、次の休みに溜まった家事を手伝ってよ」
「何でもやらせて頂きます」

珍しく下手に出たカゲミツが可笑しくて声を上げて笑う。
なんだよー!と手を振り上げたカゲミツもニヤニヤとした表情を浮かべている。

「じゃあ来週の休みは俺ん家に来いよ」
「あぁ、わかった。今日はサンキューな」
「しっかり休めよ」

歩いていたら、いつの間にやらバンプアップの前まで来てしまっていた。
おやすみ、とビルの中に消えていく背中を見送ってからトキオも歩き出す。

家事を手伝えなんて、もちろんただの口実だ。
今日一日大変だったけど、悪い一日ではなかったなと思いながら一人微笑んだ。

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