▽07/28 11:59

「カゲミツ、ちょっと頼みがあるんだ」

休日の朝、電話でタマキからそう告げられたカゲミツはとある遊園地の前まで来ていた。
家族連れやカップルが続々と入園していくのやを横目にカゲミツの気持ちは高ぶっていた。

(も、もしかしてデートのお誘い!?)

二人でジェットコースターに乗ったり、コーヒーカップに乗ったり。
お化け屋敷ではタマキが腕にしがみついてきて、最後に夕焼けの観覧車でキスをしたり。
めくるめく妄想を頭の中で繰り広げていると背後から声を掛けられた。

「カゲミツ、お待たせ」

タマキの声に振り返ると、薄いTシャツにジーパンといつもより随分とラフな服装だ。
デートというよりは今から何か作業をする感じに見える。

「さぁ、行こうか」

そう言ってタマキは入園ゲートには向かわずスタスタと歩いていく。

(デート、な訳ないよなぁ)

こっそり落胆しながらカゲミツもその後に続いた。

タマキがやって来たのは従業員用の出入口だった。
慣れた手つきでどんどんと進んで行くタマキに声を掛ける。

「い、いいのかよ」
「あぁ、俺達今日は従業員だからな」

へ?と声を上げてポカンとしたカゲミツの手をタマキが引っ張って歩く。
話を聞けば知り合いがこの遊園地で働いていて、今日バイトが突然休んでしまいタマキが手伝いに来たということだった。
おはようございまーす、とタマキがドアを開けると、一人の男性が立っていた。

「タマキ君、休みなのに悪いね」
「いいえ、大丈夫です」
「そちらの方は?」
「今日一緒にお手伝いをするカゲミツです」

紹介されて頭を軽く下げるとありがとうと手を差し出された。
とりあえず握手を交わすと、早速だけどと視線を部屋の奥に移した。
そこにはウサギとクマの着ぐるみ。
タマキの軽装の理由がやっと分かった。

「悪いけど、早速頼んだよ」

それだけ告げると男性は部屋を出て行ってしまった。
ポカンとしているカゲミツの肩をタマキが軽く叩く。

「たまには運動だと思って、さぁ頑張ろう」

ニッコリと笑顔を見せられてしまえばカゲミツは頷くことしか出来ない。
タマキが用意してくれていたタオルを頭に巻いて、着ぐるみの中に入った。

「暑っ!!」
「カゲミツ、お客さんの前で喋っちゃダメだからな」

コクコクと頷いてから、二人同時に頭の部分をかぶった。
そのまま歩いてみたけれど、思うように歩くことが出来ない。
着ぐるみとはこんなに暑くてこんなに動きづらいものなのか。
カゲミツがこっそりため息を吐き出すと、タマキがドアを開いた。

「さぁ、行くぞ!」

やる気満々のタマキの後をカゲミツも慌てて追いかけたのだった。

家族連れや若いカップルに持っている風船を手渡していく。
ただそれだけの作業なのに汗がだらだらと体を伝う。
拭いたいのに拭えない。
おまけに視界が悪いのに、無邪気な子供達が全力でぶつかってくる。
小まめに休憩を取っていたが、終わる頃になるとカゲミツはくたくたに疲れきっていた。
頭だけを外し、壁にもたれ掛かる。
服が汗でぐっしょりと濡れてしまっている。
ぼんやりと気持ち悪いな、なんて考えていると頬に冷たいものが押し付けられて体を起こした。

「悪かったな、付き合わせて」

大丈夫か?と尋ねてくるタマキはシャワーを浴び服も着替えてすっきりとしたようだ。
のぼせた感覚のまま曖昧に頷く。

「ジュースでも飲めよ」

奢りだと手渡された缶を受け取り口をつける。
渇いた喉が潤っていくのがわかる。

「生き返った気分だ」
「それは大袈裟だろ」

楽しそうに笑うタマキに、こんな休日もたまにはいいかとカゲミツは心の中で思った。
残った缶ジュースを一気に飲み干す。
ごちそうさまとカゲミツが言うより先にタマキが口を開いた。

「カゲミツが頑張ってくれたんだから、お礼しなくちゃな」

両手を顔の横につけたタマキに驚く間もなく顔が近付いてきた。
唇に当たった柔らかい感触を理解すると同時にタマキは離れていってしまった。

「今日は本当お疲れ様、ありがとう」

笑顔でそう告げると、タマキはドアまで歩いて行ってしまった。
しかしドアの前で突然くるりと振り返る。

「ここの入場券貰ったから、今度は遊びに来ような」

じゃあ挨拶してくるな、そう言って部屋を出て行ったタマキの後ろ姿を呆然と見送る。

(敵わねぇな、タマキには)

ひとりごちてカゲミツは着ぐるみの中から抜け出した。

*

かげたま感も拭い切れませんが、たまかげだと主張します←
というよりあんまりカップリング要素ない感じになっちゃいましたね
タマキにお手伝いを頼まれましたという設定で、着ぐるみシリーズは別の人でもやる予定です

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