▽05/23 00:22

それはまだカゲミツがJ部隊に入って間もない頃。
キヨタカに連れられて二人で買い出しへと街へ出掛けた時の話だ。

「なんで俺がこんなことしなきゃいけねーんだよ」
「まだ人手不足なんだ、我慢しろ」

人が溢れ返るシンジュクを歩きながら、カゲミツがキョロキョロと辺りを見回している。
公爵家の一人息子なんだから、当然街を歩いたこともないだろう。
口では不満を漏らしているが、楽しそうな表情は抑え切れていない。
まだまだ子供だなと言いたいのを我慢して、キヨタカは歩き続けた。

「あっ、」

ふいに後ろを歩くカゲミツが声を出して立ち止まった。
今まで楽しそうにはしていたけど、興味のない振りをしていたカゲミツが何か気になるものを見つけたようだ。
キヨタカが振り返ると、カゲミツは小さなペンダントを手にしていた。

「買ってやろうか?」
「いらねー!自分で買う」

無一文で家を飛び出し、まだ初任給すら貰ってないくせに。
財布を出そうと懐に手を入れるのをカゲミツが止めた。

「俺は誰にも頼らずに生きたい」

そういえばそんな理由で家出をしたんだったか。
先に歩き出したカゲミツの背中をゆっくりとしたペースで追い掛ける。
言動はちっとも可愛くないが、やっぱりまだまだ子供だ。
カゲミツに気付かれないように、キヨタカはこっそりと笑みを浮かべた。



「いらねーって言っただろ!」
「お前の就職祝いだ、これからしっかり働いて返してくれ」
「お前なぁ・・・!」

それから数日後。
カゲミツが欲しがっていたペンダントはカゲミツの手の上にあった。
買ってきたのはキヨタカで、ぎゃあぎゃあと騒ぐカゲミツを適当にあしらう。
それでもお礼も言わずに突っぱねるカゲミツからペンダントを奪った。

「なら返してこようか?お前が行く頃にはないかもしれないが」
「・・・・・・ありがとう」

お礼というには顔は膨れっ面だし、目を見ようともしない。
しかしキヨタカは奪ったペンダントをカゲミツの手に返した。

「さっきも言ったが、これからガンガン働いてもらうからな」
「・・・おう」

自分より少し低い位置にある金髪をわしゃわしゃと撫でる。
嫌そうな顔の中にほんの少し嬉しそうな顔をしたのは見逃してやることにした。

翌日、少し開いたツナギの間からちらりと覗くペンダントを見て、こっそりとキヨタカがほくそ笑んだことをカゲミツは知らない。

(これでお前も俺の嫁)

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