▽05/21 00:44
「カゲミツ」
「あ?」
茜色に染まった空を眺めている放課後の屋上。
ここに来てから随分と長い間続いていた沈黙をオミが破った。
呼ばれたカゲミツは眉間に皺を寄せて至極迷惑そうな顔で振り返る。
「あ、こっち向いてくれた」
無邪気に笑ったオミの顔に何だか気恥ずかしくなってカゲミツが顔を逸らす。
どんなに邪険に扱ってもニコニコと笑顔で話し掛けてくる変なヤツ。
最初は追っ払っても追っ払ってもついてくるオミに嫌悪感しかなかったはずなのに、最近はそんな気持ちもなくなってしまった。
単に追っ払うのが面倒になった、とカゲミツは思っている。
オミが隣にいることが普通で、いないと少し寂しいなんてきっと勘違いだ。
そう思い込みながらも、カゲミツは自分の中でオミの存在を認めつつあった。
「なんだよ」
恥ずかしいのでそっぽを向いたまま答えても、オミは全く気にする様子もなく話し始めた。
気兼ねなく話せるというのは、こういうことなのかもしれない。
「俺達友達じゃない?」
「誰と誰が」
「俺とカゲミツが、だよ」
「いつから」
「そういうこと言うなって、だからね」
友達の証としてプレゼントしたいんだ。
そう言って差し出された綺麗に放送された小箱。
普段プレゼントとして貰うものよりかは遥かに安価に見える。
それよりも友達の証としてという言葉に驚いた。
最近二人でいることは増えた。
しかし会話らしい会話なんて殆どしていない。
なのにオミは友達だと言う。
心がなんだかむず痒い。
「どうしてもっていうなら貰ってやらないこともない」
「どうしても、カゲミツに貰って欲しい」
振り返ったカゲミツにオミがしっかりと視線を合わせて言った。
その瞳に嘘は全く感じられない。
「仕方ねぇから貰ってやるよ」
ぶっきらぼうに受け取り、乱暴に中身を取り出す。
そこにはシンプルなペンダントが入っていた。
「つけてあげようか?」
「こんなもんつけれるかよ」
グッと制服のポケットに押し込むと、珍しくオミの表情が少し曇った。
それには気付かない振りをして、階段に向かって歩き出す。
「俺は帰るぞ」
「あ、待てよ!」
後ろから早足で追ってくるオミを横目に見ながら、明日こっそりペンダントをつけてやってもいいかなと思った。
その事実を知ることなくオミは学校を去ってしまったのだけど。
*
「カゲミツ」
「なんだよ」
カタカタとキーボードを叩く音が鳴り響くワゴンの中。
新たにJ部隊の一員となったオミとカゲミツは二人で諜報の仕事をしていた。
オミは手を止めてカゲミツに体を向ける。
「ずっと気になってたんだけど、そのペンダントって・・・」
「昔お前がくれたやつだ」
恥ずかしいけれど隠す必要もない。
カゲミツが正直に答えると、オミの表情がパッと明るくなった。
まるで学生の頃に戻ったような表情だ。
「ずっとつけてくれてたの?」
「お前がくれた次の日から、ずっと・・・」
片時も離したことはない、とはさすがに言えないけれど。
オミは満面の笑みでカゲミツを見ている。
「あのときは確か、友達の証としてって言ったよね?」
「そうだったな」
「あのときは言えなかったけど、本当は違うかったんだ」
「は?」
「あのころからカゲミツが好きだったんだ」
でも言えないから、そのペンダントに気持ちを託して渡した。
そうはにかんだオミにカゲミツの顔が一気に赤に染まる。
「ずっとつけててくれたんだ・・・嬉しいよ」
オミが立ち上がり、背後からカゲミツを抱き締める。
カゲミツはされるがままだ。
「あの頃は将来こんな風になると思ってなかった」
カゲミツの体を自分に向かせ、指が頬をなぞって顎を持ち上げる。
「俺だって、思ってなかった」
近付いてきた唇にカゲミツはそう呟いて瞳を閉じた。
*
勢いで書いたら一時間で出来た・・・!
ちなみにシリーズというだけあって、別の人でもやる予定です
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