▽04/19 03:54

いつもきっかけは自分から。
優しくしても口をついて出るのは否定と悪態ばかり。
恋人なら当然の行為なのに、いつまで経ってもカゲミツは嫌がる。
最終的に恍惚な表情を浮かべ、気持ち良さそうに声を上げているというのに。
あまりにも毎回毎回拒絶されると、いい加減こちらも嫌になってくる。
ということでカゲミツが求めてくれるまで待つことに決めた。
かなり辛い戦いになるだろうけど、それも仕方ない。
我慢してでもカゲミツから求めて欲しいんだから。

とは言っても何もしない訳じゃない。
ただ何もしないだけだと、疲れてるだけと勘違いされてしまう。
だから今日も風呂上がりのカゲミツを捕まえてベッドルームに連れ込んだ。
風呂上がりのカゲミツは白い肌を微かに赤くさせていて、とてもセクシーだ。
それにまだ乾ききっていない髪から水滴が滴る。
毎日見ているのに、いつまで経ってもつい魅力されてしまう。
部屋に入り、ベッドまであと少しだというのに我慢出来ずにキスしてしまった。
触れるだけなんて甘いものじゃなく、最初から激しく口付ける。
鼻から抜ける声を合図にカゲミツをベッドに横たえた。
いよいよ服を脱がそうかとTシャツの裾に手を伸ばしたそのとき。

「やめっ・・・」

裾を掴む手に自分の手を重ねてカゲミツが制止の声を上げた。
いつもはそれを無視して丸め込んで行為を進めてしまうところだけど、今日は違う。
たった一言、カゲミツが呟いた言葉で密着させていた身体をサッと離した。
ホッとしたような、それでも不思議そうな顔で物欲しそうに揺れる琥珀色にさも当然と答えた。

「やめろって言ったのはカゲミツだろ?」
「あ、あぁ・・・」

歯切れが悪いのは、もう身体に火がついているから。
でもここで自分に負ける訳にはいかない。
必死に高ぶった気持ちを抑えてるなんて悟られないように平静を装う。

「じゃあ今日は大人しく自分のベッドで眠るよ」

おやすみカゲミツ。
いつも気障ったらしく寝る前に落とすキスもせずにカゲミツの部屋を出た。
これが俺が考えた作戦だ。
焦らしに焦らしておねだりしてもらう。
いくら毎回拒絶されてもカゲミツだって男だ。
一般人並の性欲を持っているはずだ。
翌日も、また翌日も同じように誘った。
そして熱が上がってきたと同時に呟かれるのカゲミツの嫌だ、やめろという言葉をきっかけに行為をやめた。
一週間も同じことを繰り返しているのに、カゲミツは相変わらずゆらゆらと瞳を揺らすだけだ。
何も言わず、何もせずに。
こっちの我慢だって並大抵のものではない。
計画を始めて一週間と三日が経った今夜、初めてカゲミツを誘わなかった。
けれど同じ家に住んでる以上、どうしたって顔を合わせる。
手を伸ばせばすぐ触れられる距離なのに、我慢するのはもう限界に達していた。
まだ少し肌寒い4月の夜。
薄手のジャケットを羽織り玄関へと向かった。

「・・・どこ行くんだよ」

音に気付いたのか、部屋の中からカゲミツが訝しい表情でこちらを覗いている。
もう風呂に入ったんだろうか、ほんのり赤く染まった頬にすら簡単に煽られてしまう。

「さぁ、どこに行こうか?」

だからそれを隠すようにニヤリと笑った。
まるでナイツオブラウンドにいた頃のように、皮肉めいた笑い方だ。
しかしこれは本心でもあった。
ナイツオブラウンドが崩壊しカゲミツと暮らし始めて、帰るところなんてここしかない。
この時間に行く宛てなんてひとつも思い浮かばない。
それでも精一杯の虚勢を張る。
行く場所なんていくらだってあるんだという風に笑う。
もしカゲミツが行くなと言うならば従うつもりだった。
でもそんな淡い期待はあっさりと裏切られた。

「そうかよ」

それだけ告げてカゲミツは部屋に入った。
バタンと音を立てて閉められたドアの音がやけに耳に残る。
ふぅと息を吐き出したら、急に笑いが込み上げてきた。
最後に見せた訝しい顔の中に見えた不安げな瞳。
あともう一押しだ。
そう確信を持って、夜の街へと足を踏み出した。

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