▽03/30 00:09

「タマキが、戻って来た」

身体を重ねた後、処理をしようかというときにカゲミツが口を開いた。
声が少し、震えている。

「一年半前のこと、本当に何も覚えてなかったんだ」

俺が撃たれたことも、カナエのことも。

そう言って小さく笑った。
ふるふると震える肩をそっと抱きしめて髪を撫でる。
綺麗な琥珀色の瞳がゆらゆらと揺れてていた。
その様子は今まで熱を分かち合っていたとは思えないほど幼い。

「タマキが傍にいてくれる、それだけで十分だよな」

ぎゅっと握り締められた手、ごくりと唾を飲み込む音。
自分に言い聞かせるように紡がれた言葉には触れずに抱き締める腕に力を込めた。
今カゲミツが欲しいのは言葉ではないだろうし、仮に言葉を欲しかったとしても自分には言えることはない。
しばらくそうしていたけれど、カゲミツのそろそろ時間だという言葉に起き上がった。
互いに話さず、淡々と処理を済まし脱ぎっぱなしだった服を着直す。
いざ部屋を出ようというときになって、ようやく口を開いた。

「今日でこの関係も終わりだ」

何とも思ってないように、努めて軽く。
この関係はただの気まぐれだというように。
カゲミツは顔を俯かせたまま何も答えない。

「全部忘れてあげるから、お前も悪い夢だったと思いなよ」

最後にそれだけ告げて部屋を出た。
どんな顔してるか気になるけど、振り返る訳にはいかない。
この関係はなし崩し的なもので、お互い未練なんか持っちゃいけない。
隠れた恋心がバレないように。
お前は弱ったところに付け込まれただけだから、何も気に病むことはない。
ドアが閉じた音を確認して、深く息を吐き出した。

(次に会うときは敵同士だ)

胸にぽっかりと空いた穴を埋める術もわからないまま、夜の街へと足を進めた。

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