▽03/23 01:42
遠くでトキオの調子のいい声が聞こえる。
「タマキ、俺のこと好き?」
「はぁ?何言ってるんだ?」
怪訝そうな顔でトキオを見つめるタマキに、カナエがそっと耳打ちをする。
「好きだよね、タマキ君?」
「あぁ、好きだよトキオ」
「そう?ありがとー」
と、こんな感じでミーティングルームにいる仲間に片っ端から俺が好きかと聞いて回ってているのだ。
ナオユキなんて当然です、尊敬してます!なんて言っちゃって。
トキオもトキオで照れちゃうなぁなんて嬉しそうに笑いやがって。
胸がムカムカする。
「ヒカルは俺のことどう思う?」
「あぁ、大好きだよ」
「それは嬉しい!今度うちで食事でもご馳走するよ」
「そりゃどーも」
ついにはヒカルのところにまでやって来た。
この部屋で聞かれていないのはもうカゲミツしかいない。
みんなに好きだと言われ機嫌がいいのか、にこやかに笑っている。
なんだかすごく、腹が立つ。
「カゲミツは俺のこと好き?」
「大っ嫌いだ!」
バン、と行き場のない苛立ちを拳に込めて叩き付けて立ち上がる。
心底驚いた顔をしているだろうなと思って見上げると、予想に反してとても嬉しそうな顔をしていた。
「カゲミツって意外と大胆なんだな」
ぽつりと呟かれたタマキの言葉に首を傾げる。
「今日は何月何日だよ」
全く見てらんねぇと吐き捨てて立ち上がったヒカルの言葉を頭で反復する。
今日って、何月何日だっけ?
咄嗟に言われてもすぐに浮かばず、必死に記憶を手繰り寄せる。
「もう3月も終わりだよ」
そうオミが言っていたのは昨日のことだったか。
・・・ということは!
「やっと気付いた?」
ニヤリと笑ったトキオに殴り掛かったらあっさりと腕を捕らえられて抱き締められた。
「気付いて言ったんだと思ってたのに」
「そ、そんな訳ねーだろ!」
ジタバタと暴れてみても力では敵わない。
抱き締めたまま、トキオがそっと耳元で囁く。
「じゃあ大嫌いっていうのは本心なの?」
本心と言えば本心だが、違うと言えば違う。
そんなに悲しそうな声で言われても、他の奴らにデレデレしてるトキオが悪いんだ。
「俺以外に好きだって言われて喜ぶお前が悪いんだろ!」
「だからカゲミツ、大事なことを忘れてるって」
ピシッとカレンダーを指差されトキオの意図が掴めずにいるとニッコリと微笑まれた。
「みんなが俺のことは好きじゃないみたいよ?」
その言葉に驚いてみんなの顔を見回す。
今頃気付いたのかと言わんばかりの視線に恥ずかしくなった。
ナオユキだけはしまったと焦った顔をしていたけれど。
「・・・ってことはカゲミツが好きって言ってくれたら喜んでいいんだよな?」
「あっ・・・!」
ついうっかり口を滑らせてしまったことを後悔してももう遅い。
「カゲミツ以外に言われても嬉しくないからさ、言ってよ」
もちろん、嘘はつかずにね。
いたずらな笑顔を浮かべるトキオにまんまと謀られた。
しかしこの状況をうまく回避出来る方法なんて思い浮かばない。
となれば必然的に。
「す、すきだ・・・」
こうしてカゲミツのエイプリルフールは過ぎていったのだった。
仕事後家に帰ってもしばらくカゲミツに無視されてしまったけど、それはまた別のお話。
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バレンタインやホワイトデーをスルーし、エイプリルフールをするのがtameikiです←
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